僕が小学生のころのはなしだ。
今もそうだが、僕は身長がとても低い。
体だって、もやしみたいに細くて、筋肉なんてないんじゃないかと自分でも思うほどだった。
それがコンプレックスになっていて、自分というものに自信がもてないでいた。
小学生のころもそれは同じで、いつもオドオドして、自信がないから卑屈で、友達だっていやしなかった。いつも一人で、暗く、根暗だった。
それは今も変わらないけれど、当時の僕はそれに輪をかけてひどかったと思う。
チビでもやしっこの男の子。
それが僕だった。
*
それなのに、どういうわけか、僕の好みの女の子は、背の高い子だった。
しかも、ただ背が高いだけではだめで、肉付きがいいというか、体格のいい女の子が好きだった。
その理由は自分でも分からない。
自分にないものを女の子に求めていたのかもしれないし、そういうものになりたいという欲求が、僕の生物としての保存本能を刺激したのかもしれない。
とにかく、背が高くて、体格のいい女の子、いってしまえば、強い女の子が僕のタイプだった。
あれは、小学校6年生のころだった。
そのクラスでも、僕の身長は女の子もあわせて一番低かった。
体重だって、下手をしたら女の子より軽かったかもしれない。
それまでがそうだったように、僕はそのクラスでも、誰も友達ができず、軽く虐められていた。
嫌だったけど、不登校になることはなかった。
そのクラスには、僕の好みの女の子が、まさに存在したからだ。
その女の子の名前は、広末真由美といった。
少し茶髪じみた髪。
顔立ちは同学年の女子に比べて大人びていて、そのキリッとした切れ長の瞳が印象的だった。
しかも、彼女はクラスの中で、一番背が高かった。
男子も含めて一番だったのだ。
詳しい身長なんて知らないが、たぶん、小学6年生にして、真由美ちゃんは170センチくらいはあったと思う。
当時の僕の身長は132センチだったから、彼女のことを見つめるには、いつも、顔を上にあげて、見上げるしかなかった。
小学生で170センチも身長がある場合、普通はひょろひょろのゴボウみたいな細身なんだけれど、真由美ちゃんは違っていた。
肉付きがほんとうにすばらしかった。
圧巻はその太ももだ。
長い、長い脚。
腰の位置も高く、まるで海外のモデルさんみたいな魅力的な脚だった。それなのに、その太ももは、とってもムチムチしていて、一言でいうならエロかった。
ただの脂肪というわけでもない。
真由美ちゃんは陸上クラブに入っていて、その太ももの中には、かなりの筋肉が秘められているのがすぐに分かった。
歩くたびに、階段をあがるたびに、彼女の太ももにうっすらとした筋肉が浮かび上がっていて、見るだけで僕は興奮していた。
陸上をやっているせいもあって、彼女は冬も日に焼けていて、褐色の肌。それが彼女の健康的な野性味をさらに増していて、魅力的といったらなかった。
しかも、彼女は学校にはいつも、ホットパンツで登校してきていたのだ。
パンツでも見えるんじゃないかってほどの短いホットパンツ。ジーンズ柄がお気に入りらしくて、何着も少し柄が違うものをもっているらしかった。
そのホットパンツから伸びる太ももの魅力といったら、すさまじかった。惜しげもなくさらされたその大きな脚に、性に目覚めたばかりの僕は、とてつもなく興奮していた。
脚だけではなく、お尻だって大きくムチムチしていた。
胸は年相応で、そんなに大きなものであった記憶はなかったけれど、その兆候みたいなものはその膨らみから見て取れた。
僕は、真由美ちゃんの姿をただひたすら凝視していた。
教室で、彼女がその長くも逞しい脚を組むたび、僕は気づかれないように細心の注意を払いながら、ちらちらとその様子を盗み見ていた。
当時を思い返してみると、よくよく、自分は真由美ちゃんのストーカーみたいだなと思う。
それでも、当時の僕にとっては、真由美ちゃんこそ救いであって、生き甲斐だった。
彼女がいてくれたからこそ、僕は辛い学校生活にもなんとか必死に歯を食いしばって耐えられたのだ。
まあ、そんなこと、言い訳にもならないことは分かっているけれど。
*
そんな真由美ちゃんは、ただ背が高い女の子というわけではなかった。
彼女の性癖というか趣味もまた、僕の好みどおりだったのだ。
「ねえねえ、鈴木くん、腕相撲しようよ」
教室の中。
隣の席の男の子に、彼女はよくそう言っていた。
そのとき、真由美ちゃんは、いたずら娘みたいな勝ち気な笑みを浮かべていたと思う。
彼女の趣味は、男の子と腕相撲をすることだった。そして、男の子を完膚なきまでに負かして、くやしがっている男の子を見て、ニヤニヤと笑みを浮かべる。それが彼女の趣味だった。
「はい、またわたしの勝ちだね」
腕相撲の結果は常に同じだった。
このときも、クラスでも運動神経がいい男子を、秒殺してしまった。
大きな手で男子の手を掴む。勝負の最初から最後まで、真由美ちゃんのニヤニヤ笑顔はやまない。
レディーゴーの合図の後、男の子が顔を真っ赤にして、力の限りを尽くして、真由美ちゃんの腕を倒そうとする。そんな必死の男の子を前にしても、真由美ちゃんのニヤニヤ笑顔は健在だった。
まったくの余裕。
まるで鼻歌でも歌うかのように、真由美ちゃんは男子の力を受け止め、机の上に置かれた腕はビクともしなかった。
そして、彼女は、そんな必死な男子を見つめて、観察するのだった。その様子が、獲物のネズミをいたぶって遊ぶ猫みたいに思えて、とても興奮したことを覚えている。
「ほらほら、それで全力なの?」
おどけたように言って、男子をあおる。
それを受けて、男子は男としてのプライドをかけて真由美ちゃんの腕を倒そうとする。
しかし、ビクともしない。
真由美ちゃんは顔を真っ赤にして必死に力をこめている男子をニヤニヤ見つめるだけ。そして、それに満足すると、真由美ちゃんはゆっくりと、己の力を見せつけるようにして、男子の腕を机に倒していくのだった。
真由美ちゃんが力をこめていけば、男子はもう、手も足もでなかった。
必死に、なんとか真由美ちゃんの力を受け止めようとしているのに、無情にも自分の腕は机にむかって倒れていってしまう。
ゆっくりと、ゆっくりと、女の子の力に負けて、自分の腕が倒れていく。
その絶望に、男子が顔をあげて真由美ちゃんの顔を見てしまう。
そうなればもうダメだ。真正面には、自分のことをニヤニヤと観察している可愛い女の子がいる。
それを認識したとたん、男子はプライドをズタズタにされ、戦意を喪失する。がっくりと肩を落とすのが見ていても分かる一瞬だ。
その途端、手加減をしていた真由美ちゃんが瞳をキラリと光らせて、ズドンと勢いよく、机に男子の腕を叩きつける。
その様子がまたど迫力で、それをやられた男子はそれだけで心が折れてしまうのだろう。
それから先、男子は真由美ちゃんに逆らうことができなくなってしまうのだった。
「ねえねえ、女の子に腕相撲で負けて、恥ずかしくないの〜」
真由美ちゃんが、うつむいた男子の顔を下からのぞき込みながら言った。
ニヤニヤとサディスティックに笑いながらの言葉。真由美ちゃんは容赦がない。負かした男子の腕を放さず、その大きな手でつかみ、机の上にぎゅうぎゅうと押し込み続けている。
「ふふっ、鈴木くん、弱いね〜」
その言葉が仕上げとなって、真由美ちゃんは満足したように男子の手をはなしてやるのだった。
負かされた男子の屈辱は相当なものだろう。可愛らしく、スタイル抜群の同級生の女の子に、力勝負で完膚なきまでに敗北してしまったのだ。
中には泣き出してしまう男子もいるし、うまくその現実を受け入れられないのか、途端に落ち着きをなくす男子もいた。
そんな真由美ちゃんの腕相撲は、席替えが終わるまでずっと続く。
席が近い男子に、毎日のように腕相撲の勝負をもちかけ、そのすべてに圧勝してしまう女の子。
クラスの男子たちは戦々恐々として、真由美ちゃんのそばには近寄らないようにするのだが、それを逃がす真由美ちゃんではなかった。
勝負を断ろうにも、断ればなにをされるか分からない。
真由美ちゃんは、腕相撲以外に、男子に暴力をふるったりとか、虐めるとか、そういうことをする女の子ではなかった。
それでも、腕相撲を断ったら、それもどうなるか分からない。
もしかしたら、もっとひどいことをされるかもしれない。
馬乗りになって殴られたり、あの逞しい脚で思いっきり蹴られてしまうのではないか。
そんな恐怖に苛まれた男子たちは、真由美ちゃんの腕相撲の勝負に強制的に参加させられた。そして、来る日も来る日も、真由美ちゃんに手も足も出ないまま負かされる屈辱を味わっていた。
僕は、そんな様子を、毎日の生き甲斐としていた。
真由美ちゃんの腕相撲を逃さないために、休み時間も教室から出ることなく過ごしていた。
そして、僕にとって至福のときが訪れた。
(続く)