三



 基礎体力訓練の午前が終わった。

 結果は男子たちの惨敗だった。

 階段ダッシュが終った後、高等部の男子たちは疲労困憊してうなだれ、逆に中等部の少女たちはキャッキャと姦しく元気いっぱいだった。

(ちくしょう……今に……今に見てろよ)

 それでも大輝は闘志を失っていなかった。

 昼食を挟んだ午後からが本当の勝負だ。

 気温があがった灼熱の道場で行われるのは、時間無制限の乱取りだった。広い道場内で、総当たりで相手と対戦する。試合が終わっても乱取りは終わらない。ただひたすら、時間無制限に相手と組み合い、技をかけあう地獄の時間だ。

 高等部の男たちが、中等部の成長しきっていない男子たちを痛めつけるためだけに存在する行事。そこで、生意気なエリカたちに引導を渡してやる。いくら体力がすごいからって、柔道では勝てないことを教えてやるのだ。

(やってやる……覚悟しろよ、ちくしょう)

 エリカに負けてプライドを傷つけられた大輝が固く決意する。

 絞め落としてやる。

 ボコボコにしてやる。

 泣き喚いても許さない。

 何度も絞め落として痛めつけてやる。

 そんなことを想像して大輝は傷心をいやしていた。

 模擬試合の時間はあっという間にやってきた。

「よろしくね、お兄」

 道着姿のエリカがニンマリ笑って言った。

 大輝は力強くエリカを睨みつけた。

「後悔するなよ。いくら体力があるからって、柔道は別だ。柔よく剛を制すってやつを、お前の体に叩き込んでやるよ」

 勝てるはず。

 柔道では負けない。

 初等部の頃、自分は一度も妹に負けることはなかった。何度も負かして、泣きべそをかかせて、締め落としてきたのだ。

「ふふっ、あ~、ちょ~楽しみ~」

 エリカが強気な大輝を見下ろしてつぶやく。

 その瞳は残酷な猫のように細まり笑っていた。



 *



「はじめっ」

 大輝が全体に声かけをして、始まった。

 周囲の男女が組み合って、試合を開始する。

「いくぞ、エリカ」

 大輝も勢いよくエリカと組み合おうとする。

 身長差から、腕を上にあげなければ道着をつかむことができない。体格差があり不利であることは百も承知だった。袖をつかむための激しい攻防を強いられるだろう。そんな予想は、あっさりとエリカの道着をつかむことに成功したことで逆に裏切られた。

「きゃっ、襟とられちゃった」

 エリカがおどけて言う。

 どこまでも舐めた奴だ。

 余裕をかましてわざと襟を持たせてやったということか。

(舐めやがって)

 その油断が命取りだ。

 必殺の背負い投げ。

 小さな体をさらに小さくしながら相手の体を引き込み、投げる。大輝が絶対の自信をもっている技をかけようと、摺り足で勢いよく踏み込み、自分の背中をエリカにむけた。そのまま、全身全霊をかけて、背負い投げを―――。

「なっ!?」

 背負い投げをしようとした体勢のまま、大輝の体はビクとも動かなかった。

 自分の背中に押し当てられているエリカの体がまるで壁のように感じられる。妹はニンマリ笑って仁王立ちしていた。

「なにしてるの、お兄♪」

 笑ってバカにする。

 大輝は、「く」と声をもらしながら、エリカの道着を放して距離をとる。混乱した大輝に追い打ちをかけるように、エリカが笑った。

「ひょっとして今の背負い投げのつもりだった? 確かお兄が得意な技だよね」

「な、なんだと」

「ぜんぜん基本がなってないんじゃない? つーか、力弱すぎっしょ。そんなんじゃ、エリカのこと背負おうなんて百年早いよ」

 お手本見せてあげる。

 がしっ。

 力強く、エリカが大輝の道着をつかむ。

 襟と袖。

 そこをつかまれただけで、大輝はこれから自分がいとも簡単に投げられることを悟った。それだけの力量差があることを把握するくらいには大輝も実力者だった。けれども、そんな予感はなんの役にも立たない。

「えい♪」

 どっすうううんッ!

 楽しげに放れた声を聞きながら大輝は宙を舞った。投げられると分かっていながら反応すらできなかった。気づいたら自分の視界が反転して、勢いよく畳に叩きつけられていた。

「くうううッ!」

 反射的に受け身はとれた。

 今までの鍛錬の成果だ。

 それなのに体に受けたダメージは甚大だった。背中を強打して、息が思うようにできない。苦しくて、大輝は苦悶の表情を浮かべながら、陸揚げされた魚みたいに口をぱくぱくさせて悶えていた。

「あはっ、はい一本」

 エリカが兄を見下ろしながらニンマリと笑う。

「簡単に投げられちゃったね? どう? 妹に瞬殺された気分は?」

「う、ううう」

「言っておくけど、エリカ、だいぶ手加減してるからね? 今のでだいたい3割くらい。ふふっ、お兄はなんとか受け身とれたみたいだけど、次はどうかな」

 エリカの言葉が理解できない大輝。

 そんな兄を無視するように、妹が兄の道着をつかんで立ち上がらせる。自分で立っていることもできないほどズタボロにされた獲物は容赦なく立たされ、強制的に次の対戦へと叩き込まれるのだ。

「ほい、4割」

 どっすううううんッ!

 ぱしいいんッ!

「カヒュウウ―――ッ」

 またしても大輝が宙を舞った。

 勢いよく地面に叩きつけられる。

 なんとか、かろうじて受け身をとれた。

 あと一瞬反応が遅れたらやばかった。戦々恐々とする大輝に長身の妹が襲いかかる。

「5割」

 どっすうううんんッ!

 ぱしいッ。

「がはああああッ!」

 もはやぼろ雑巾だった。

 倒れた大輝はエリカの怪力でもって強制的に立ち上がらされ、すぐさま地面に叩きつけられる。エリカの巨体が信じられないほど早くひるがえる。その大きな背中に自分の体が背負われて、そのまま射出台から飛び出るロケットみたいに勢いよく、畳に背中を強打する。

「6割」

 どっすうううんんッ!

 ぱしッ。

 ほとんど受け身がとれなかった。

 反応できない。

 目の前が真っ暗になって、さきほどから満足に息を吸えなかった。口をぱくぱくさせて、激痛と息苦しさに顔を歪ませた大輝が、またしてもエリカによって強引に立ち上がらされた。

「ぷぷっ、お魚さんになっちゃったね、お兄」

 バカにしたように、大輝の道着をがしっとつかんだエリカが言う。

 大輝はもはや自分で立っていることもできず、口をぱくぱくさせて悶え苦しむだけだ。

「苦しいっしょ? 背中強打して息も吸えないんだよね。このままだったら、お兄、妹のエリカに背負い投げだけで殺されちゃうよ? ぷぷっ、まだエリカ、本気出してないのに」

 エリカの腕の力が増した。

 彼女がその気なら、すぐに投げられてしまう。その恐怖に大輝は「ひい」と悲鳴をもらした。

「怯えてる怯えてる。あ~、きもち~」

 エリカが、サディスト全開の笑顔で兄の顔を鑑賞している。

「ほら、今から9割でいくよ?」

「あ、あ、あ」

「6割でも満足に受け身がとれないお兄が、これくらったらどうなるのかな~」

「ゆ、ゆるして……や、やめて……」

「やめないよ。今からお兄のこと、容赦なくぶん投げる。きっとお兄は受け身もとれない。背中を強打して死んじゃうかもね」

 ニヤニヤ笑った残酷な少女。

 ついに大輝はぽろぽろと涙を流して負け犬の顔を妹にさらしてしまった。

「あ~あ、泣いちゃった」

 バカにしたようにエリカが言う。

「年下の妹に柔道の技で投げ飛ばされただけで泣かされちゃったね。なさけな~い」

「う、ううううッ」

「勝てると思ってたんっしょ? 初等部の頃みたいに自分のほうがエリカよりも強いんだって、そう思ってたんだよね。それなのに、現実は手も足も出ずに完敗。自分の得意技だったはずの背負い投げは全く通用しないで、逆に妹に背負い投げで殺されかかってる。みじめだね~」

 ニンマリと妹が笑って、

「ほい、9割」

 どっごんんんんッ!

 人体が破壊される音。

 道場が比喩ではなく揺れた。

 大輝の体が畳に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。気絶してしまったのだ。白目をむいて、ぴくぴくと痙攣している。

「ふっ、ザ~コ」

 地面であおむけの格好で痙攣している兄を妹が見下ろす。

 彼女はそのまま、勝者の当然の権利と言わんばかりに、気絶した兄の顔面を踏みつけにした。

 エリカの大きな足裏が、兄の矮小な顔面を覆い隠して潰している。ぐりぐりと蹂躙しながらエリカが言った。

「まだまだこれからだからな、お兄」

 嗤う。

「次は、いよいよ締め落としだよ。覚悟しろよ、お兄」 



 *



 大輝は夢の中にいた。

 苦しくて苦しくて仕方なかった。

 背中がバカみたいに痛い。

 息が吸えない。

 自分の体が信じられないくらいに重かった。

 まるで、何か大きな岩があおむけに倒れた自分の体を押し潰しているかのようだ。その岩は執拗に自分の体を潰し、地面に縫いつけにしていた。なんだこれは……はなしてほしい。許して欲しい。そこまで思考が回復して、大輝は覚醒した。

「あ、起きた? お兄」

 エリカの声がすぐ頭上で聞こえてきた。

 岩はエリカだった。

 大輝は自分の体が畳の上であおむけに倒れ、その体の上にエリカが容赦なく座っている現実に気づいてしまった。

「あ、ああああ」

 妹の巨尻が兄の腹を潰している。

 エリカは股を開いて、ヤンキー座りで大輝の体の上に座っているのだった。それはマウンティングだ。誰が上なのか分かりやすく行動で示している。

「ひ、ひいい」

 恐怖から大輝が暴れる。

 その巨体から逃げるために体をじたばたさせて拘束からのがれようとする。

「なにしてるの、お兄」

 しかし全くの無駄だった。

 必死に暴れる兄の体を、エリカは巨尻だけでもって押し潰しているのだ。哀れな兄は、妹の巨尻でもって地面に縫いつけにされ、息の根を止められた虫の標本になってしまった。そんな鑑賞物を妹がニヤニヤしながら見下ろしている。

「次は締め落としだよ」

 無慈悲に宣告する。

「徹底的に締め落とす。泣いても喚いても許さない。何度も何度も、お兄の意識を刈り取ってやるからな」

 ニンマリとした笑顔。

 大輝は悲鳴をあげさらに暴れようとする。

 それよりも早くエリカが襲いかかってきた。

「ほら、逃げなよ。逃げないと、死ぬよ?」

 大輝の胴体を太ももでがっしりと挟み込み、馬乗りになるエリカ。彼女はそのまま、大輝の襟をつかみ、がっちりと拘束してしまった。

 こうなってはもう逃げられない。

 圧倒的な体格差。

 大輝はムチムチした妹の太ももの力強さに息をのみ、なんとか逃げようと体全体をバネのように暴れさせる。しかし、自分のことを押し潰す妹の巨体を1ミリも動かすこともできずに、すべては無駄に終わってしまった。

「らんらんら~ん」

 鼻歌をうたって余裕な妹。

 そのまま、てきぱきと調理を開始してしまう。

 兄がどういうふうに抵抗するか、すべて予知され先回りがされていく。まるで詰め将棋だ。大輝は自分の行動がすべて読まれ、あっという間に技がきまっていくのを呆然と見つめるしかなかった。最後に、エリカの太ももがガバっと開脚して獲物の首に巻きつき、ぐるりと体勢が入れ替わると、勝負はついてしまった。

「じゃ~ん、三角締めの完成で~す」

 笑ったエリカが勝ち誇る。

 地面にあおむけになったエリカの太もも―――その肉と肉の間に大輝の片腕と頭部が挟み込まれてしまっていた。

(だ、ダメだ……こんな太ももで締めつけられたら……)

 間違いなく死ぬ。

 それが分かるポテンシャルの高さ。

 妹の太ももは高い体温と柔らかい肉の感触を伝えてきていた。ムチムチの女性らしい太もも。しかし、その皮下脂肪の下に、凶悪な筋肉が眠っていることが嫌でも分かった。その存在感の前に、大輝の心は早くも折れてしまった。

「ぎ、ぎぶあッギュウウウッ!」

 ギブアップしようとした瞬間、締めつけが開始された。

 ムチムチの太ももに筋肉の鎧が浮かびあがって、捕らえた獲物をむしゃむしゃと喰らい尽くした。

「いっぎいいいいッ!」

 哀れなのは大輝だ。

 もはやその命は風前の灯火だった。

 大輝の胴体よりも太く体積を膨張させた妹の太ももによって、命を刈り取られていく。頭蓋骨がベギバギと軋んでいる。エリカがニヤニヤと余裕たっぷりに笑っていた。

「すごいっしょ、エリカの太もも」

 苦しみ悶える大輝を鑑賞しながらエリカが言う。

「エリカ、立ち技より寝技のほうが得意なんだよね。その中でも一番の得意技が三角締め。頸動脈締めないで、頭蓋骨だけ締めあげると、みんなすっごい悲鳴あげて苦しむの。今のお兄みたいに」

 ぎゅううううッ!

 バギバギッ!

「ギャアアアアアッ!」

「あはっ、いい悲鳴~。お兄の命を握ってると思うとすっごい興奮するよ。ねえ分かってる? 今、お兄は妹の太ももで殺されかかってるんだよ? なさけないね~? みじめだね~。もっと締めつけてやるからな」

 ぎゅううううッ!

 ベギバギベッギイッ!

「ああああああああッ!」

「ぷぷぷっ、もう白目むいちゃった。なさけな~い。エリカ、まだ本気出してないんだけどな~。まだ5割くらいで遊んであげてるのに、もうお兄は死にそうになってる。この前も、武相の中等部の男子相手に遊んでたら、相手の頭蓋骨にヒビ入っちゃってさ~。あの時は傑作だったよね~。人間って、あんなにおかしく発狂するんだって、病みつきになっちゃったよ」

 お兄の頭蓋骨も粉砕してやろっか?

 エリカが人差し指でツンツンと兄の額をつっつく。そんないたずらに気づくこともできないほど、大輝は絶叫をあげながら悶え苦しんでいた。

(たしゅけて……たしゅけてええ……)

 白目をむいた大輝の心が折れる。

 この苦しみから逃れるためならなんでもする。

(むり……もう……ぎぶ……アップ―――)

 大輝がそっと手でエリカの太ももをたたいた。

 明確に意志が伝わるように。

 自分の負けであるということが伝わるように。

 ぱしぱしぱしっと。

 しっかりと、何度もタップする。

 しかし、

「なにしてるの、お兄」

 かえってきたのはサディストの笑顔だけだった。

「この合宿、ギブアップなしなんだよね? 締め落とされてもずっと試合が続くんだよね? 今までも、お兄は中等部の男子がギブアップして許してやったことないんっしょ? なのに、なんでお兄は許されると思ってるわけ?」

 絶望。

 大輝が白目のまま涙をぽろぽろ流す。

 それでも大輝はタップを続けた。

 兄にできるのはそれだけだった。

 妹の慈悲にすがって自分よりも強い太ももをタップしていく。ふふっと、残酷で巨大な子猫が嗤った。

「6割」

 ぎゅうううううッ!

 ベギバギベッチイイッ!

「ギャアアアアッ!」

 締めつけが強くなる。

 エリカの太ももの間で矮小な兄の頭部が潰されていく。

 頭蓋骨が軋む。じたばたと痙攣を始める男の体。死の危険を感じた獲物が、「ぱしぱしぱしぱしぱしっ!」と勢いよくエリカの太ももをタップする。強い生き物に対して必死の命乞い。しかし、どんなに乾いた音が「ぱしぱしぱしっ」と連続して響いても、命を刈り取るムチムチ太ももは力を緩めるどころか逆に強めるだけだった。

「7割」

 ベギバッギイインッ!

 致命的な音がして大輝の動きが止んだ。

 気絶したのだ。

 大輝の体がすべての抵抗をなくしてびくんびくんと痙攣していた。妹の太ももに埋もれた兄の意識が、深い暗闇の中に落ちていく。



 *



「死んだ? ねえお兄、死んだ?」

 気絶した兄を観察して、ニヤニヤ笑ったエリカが言う。

 彼女は自分の股の間に生えた男の髪の毛をつかむと、そのまま立ち上がった。

 片手だけで兄の髪の毛をつかんで、持ち上げ、宙づりにしてしまう。明確な身長差―――大輝の足が地面から離れて、ぶらぶらと揺れ始めてしまう。

「ぷぷぷっ、いい顔になったね、お兄」

 そんな兄の情けない顔をじっくりと鑑賞する妹。

 彼女は自分の顔の高さまで持ち上げた獲物の姿をじっくりと観察していた。

 ひとしきり楽しんだ後、エリカは続きをすることにしたらしい。

「起きろ」

 バッシシインッ!

 ベッッチインンッ!

 往復ビンタ。

 片手で大輝の襟首をつかんで宙づりにして、もう片方の手で兄の両頬をたたいていく。一撃ごとに大輝の首はねじきれそうになるほど左右に吹っ飛び、またビンタされる。

「ふはっ?」

 顔が腫れあがるころにようやく大輝が覚醒した。

 ニンマリ笑ったエリカが宣告する。

「起きた? じゃあ、続きするね」

「は、はあ?」

「次は頸動脈を締めて気絶させる」

 エリカが獲物を地面に放り投げる。

 受け身もとれなかった男が地面に転がると、すぐに調理された。三角締め。あっという間に技がきまり、エリカの凶悪な太ももの間に大輝の頭部が挟み潰される。

「墜ちろ」

 ぎゅっ。

 一瞬。

 エリカが大輝の頸動脈めがけて的確に力をこめる。

「グボオオオオオオッ!」

 それだけで大輝は簡単に気絶した。

 まるで手品だ。エリカの極太な太ももに少し力がこめられただけで一瞬で気絶してしまったのだ。

「ぷぷっ、ザ~コ」

 エリカが言う。

「ほら、起きろよ」

 残酷な妹が拳を振り上げる。

 それを無造作に、容赦なく、兄の頭に振り下ろし始めた。ボゴンボゴンッとエリカの拳が男の頭にたたきつけられる。まるでハンマーのように固く大きな拳が数回直撃すると、大輝は妹の太ももの間でまたしても現実に戻されてしまった。

「起きたね、お兄」

 ニンマリとエリカが笑う。

 太ももの間で挟み潰されたまま視線だけをきょろきょろさせている男。その間抜けな表情を鑑賞しながら、エリカが続ける。

「わかってる? お兄は今、妹のわたしに締め上げられて、1秒ももたずに気絶したんだよ? 抵抗するヒマもなく締め落とされて、今どんな気分?」

「う、うううう」

「あははっ、あ~あ、また泣いちゃったね。言っておくけど、まだまだこれからだよ。この後、お兄は、こうやって頸動脈締めつけられて、何度も連続で気絶するの。途中で頭蓋骨だけ締め上げてあげる。ずっとずっと、締め落とし続ける」

 容赦のない死刑宣告。

 兄が妹の前でぼろぼろと泣く。

「ひゃめてえ……ゆるして……おねがいします……」

「ぷぷぷっ、泣き入っちゃったね。年上の男のくせにみっともな~。兄が妹に手も足も出ずに完敗。許してもらいたくて必死に媚び売っちゃってる。あ~、チョ~きもち~」

 エリカがニンマリ笑う。

 そのまま無造作に兄の頭を撫で始める。

 ぐりぐりと乱暴に。兄の頭部を太ももの間に挟みこんで拘束しながら、太ももの間にすっぽり埋もれている頭を撫でてやる。

「じゃあ救済措置をあげるよ」

 ニヤニヤ笑いながら、

「お兄が次にタップしたら、締め落としはやめてあげる。今日はもう終わり。あとは休んでていいよ」

 嗤って、

「優しい妹をもってお兄は幸せものだね。じゃあやろっか」

 瞬間、大輝が手を動かした。

 まだ締めつけられてもいないのに、妹の太ももを躊躇なくタップしようとする。もはやプライドをボキボキに折られてしまっていた大輝は、この地獄から抜け出せるためならなんでもする男になってしまっていた。

「あはっ、だ~め」

 ぎゅッ!

「グボオオオオッ!」

 そんな必死な兄をあざ笑うかのように、エリカが兄の頸動脈を締めつけ、意識を刈り取った。

 タップしようとしていた大輝の腕がばたんっと畳の上に墜ちる。一度のタップすらできない。実力差はここに極まっていた。

「残念。タップできなかったら続きするね」

 小動物で遊ぶ残酷な猫のような笑顔。

「はやくタップしないと死んじゃうかもよ。がんばってね、お兄」

 そこから始まったのは締め落とし地獄だ。

 気絶した大輝は妹の太ももに挟まれたまま、容赦なく拳骨で頭を殴られ、すぐに意識を回復させられてしまう。

 意識を戻した大輝はすぐさま妹の太ももをタップしようとする。しかし、それよりも早くエリカの太ももが「ぎゅっ」と控えめに力を増し、兄の頸動脈を締めつける。そうするとすぐに「グボオオオッ」と壊れた掃除機みたいなイビキがあがる。それが繰り返される。

 次第に大輝はすべてを諦めていった。

 タップしようとしても無駄なのだ。

 だとすればタップしようとしなければいい。

 なにをしても無駄。

 大輝は妹の太ももの間に顔をつっこみ、四つん這いのまま動かない人形になる。しかし、エリカがそれを許すはずがない。

「タップしないなら、頭蓋骨、粉砕するね♪」

 ぎゅううううううううッ!

 ベギバギベッギイイッ!

 頸動脈を締めつける時とは違って、エリカの太ももが凶悪に躍動する。ボゴオッと体積を増した女の太ももが、矮小な男の頭部をぺちゃんこにしようと力をこめている。

 頭蓋骨が軋む音。

 壊れていく音。

 さきほどまで人形だった男の体が面白いように痙攣して断末魔の悲鳴をあげ始める。兄に許された行為は一つだけ。大輝はたまらず、腕をあげ、妹の太ももをタップしようと、

「はい、ダメ~」

 ぎゅっ。

 その一瞬で、エリカがまたしても兄の頸動脈を絞めつける。

 自由自在。

 頭蓋骨だけを締めつけることも、頸動脈を的確に締めあげることも、エリカの太ももにかかれば楽勝なのだった。

「ぐぼおおおおッ!」

 すぐに大輝は気絶する。

 それをエリカがニンマリと鑑賞するのだ。

 締め落とし地獄はまだ始まったばかりだった。



 *



 ひたすら締め落とされる。

 大輝はどれだけ時間が経過したのか全く分からなかった。

 意識を取り戻すと、そこはエリカの太ももの中だ。自分よりも強い太ももは、とんでもなく柔らかく、自分の両頬に食い込んでくる。怖いのはその柔らかい肉の下にある筋肉だ。今もビクンビクンッと躍動している凶悪な生物。それがひとたび目覚めれば、自分なんて跡形もなく潰されてしまう。

 妹が手加減をしていることも分かっていた。

 エリカが本気で締めつけをしたら、本当に自分の頭はぺちゃんこになって、脳味噌までこの太ももの間でぐじゃぐじゃにされ、殺されてしまうだろう。

(なんで……こんな……強く…………)

 意識を朦朧とさせながら、断片的な言葉で大輝は疑問に思う。

 初等部の頃から格段に成長したエリカの肉体。

 たった1年半。

 それだけで、ここまでの肉体と、柔道の技術を身につけた妹の存在が信じられない。化け物。血の繋がった妹が、自分とは違う恐ろしい生物にしか思えなかった。

「お兄、生きてる?」

 またしてもエリカがニンマリと笑う。

 大輝はその鑑賞に耐えるしかない。

「見てよ。エリカの股間、お兄の涙とか鼻水でぐじょぐじょになっちゃった」

 言われてみれば確かにそのとおりだ。

 エリカの股間は兄の敗北体液によってびしょびしょに濡れていた。

「泣きすぎっしょ。年下の女の子に泣かされて、恥ずかしくないわけ? ぷぷぷっ、頭蓋骨締め上げたらバカみたいに絶叫して悲鳴あげるしさ。弱すぎだよね、お兄」

 ぎゅっぎゅっ。

 エリカがリズミカルに太ももに力をこめる。

 その動きにあわせて大輝の頭部もぎゅっぎゅっと締めつけられる。それは完全なお遊び。それなのに、大輝はビクンッと痙攣して、怯え狂ってしまう。

「ゆるじで……もう、やべでくだじゃい……締めるの…ひゃだ……」

 完全に心が折れてしまったことが分かる声。

 負け犬の声で兄が妹に命乞いをしている。

 それを聞いたエリカは、やはり嗜虐心を燃え上がらせ、ニンマリと笑うのだった。

「それにしても、お兄たちの学校って、ほんとザコばっかりだよね」

 エリカがふふっと笑って、

「そういえば、お兄はずっとエリカの太ももの間で締め上げられてたから、ほかの男がどんな目にあってるか見てなかったっけ。いいよ。ちょっとだけ解放してあげる」

 エリカがその長い脚を開脚させる。

 久しぶりに解放された大輝の頬と首にはドス黒い内出血の痕ができあがっていた。

「ほら、ほかの男もみんなボコボコにされてま~す」

 エリカの言葉どおり。

 大輝の視界に、その地獄絵図が入ってくる。

「ひいいいいいいいッ!」

「かひゅう――かひゅう―――」

「たずげでくださいいいいッ! もうやめてくださいいいいッ!」

「ギャアアアアアアアッ!」

「たしゅけて……ころしゃないで……」

 男たちが悶えている。

 長身の鍛え上げられた女の子たちが、高等部の男たちを血祭りにあげていた。

「きゃははっ、首にまた私の腕が巻きついちゃったね。このまま締め落とすから覚悟してね」

「おらっ、とっとと起きろよ。まだまだ投げ飛ばすからな。次は一本背負いで失神させてやるよ」

「うわっ、中等部の女子相手に命乞いしちゃったこいつ……恥ずかしくないの、おまえ」

「地獄締めで10回連続で締め落とされてどんな気分? すごい苦しいっしょ。どんどんいくよ」

 例外はない。

 年下の女子が年上の男子をボコボコにしていく。

 投げ飛ばして遊ぶ少女。

 締め落として遊ぶ少女。

 笑いながら、楽しそうに、男という玩具で遊んでいく中等部の女子たち。

 男たちは悲鳴をあげ、ぽろぽろと涙を流して、ぼろ雑巾にされていった。

「情けないよね、お兄たちって」

 絶望する大輝を見つめてエリカが言う。

 自然とエリカが大輝の背後にまわった。

 そのまま兄のことを抱きしめて畳に座り込む。

 エリカの長くたくましい両腕が兄の首に巻きついてがっちりと拘束する。長い脚があぐらをかくようにして大輝の胴体に巻きつき、全方位からの拘束を完成させる。そのまま妹が兄の耳元で囁いた。

「エリカたちの方が人数少ないのに、お兄たちをみんな制圧しちゃった。よわすぎだよね~」

「ううううッ」

「ほら、あそこ見える?」

 ぐいっと顔の向きを変えられる。

 視線の先。

 そこには、ガクガク震えて正座のまま待機する男子たちがいた。その前で、一人の少女がじっと男子たちを見下ろしている。淡々とした視線で男たちを一人一人観察している少女。

「あれ、品定めしてるんだよ。どの男子の活きがいいかって見定めて、どれで遊ぼうか選んでるわけ。ぷぷぷっ、男どもはそれを怯えきって待つだけ。エリカたちのことが怖すぎて逃げることもできずに、ガクガク震えながら締め落とされるのを待ってるの。傑作だよね」

 あ、もう決まったみたい。

 エリカの言葉どおり、男を見定めていた少女が一人の男の襟首をつかみながら空いているスペースめがけて歩いていく。そして拷問が始まる。道場中に響きわたる悲鳴。少女の足が男の首に巻きつき、容赦ない締め落としが始まる。

「お兄たちは、エリカたちに負けたんだよ」

 ニンマリ。

 大輝の耳元で妹が囁く。

「これからお兄たちは、エリカたちの玩具。この合宿中、ずっと締め落としまくる。普通だったら殺しちゃうかもだけど、エリカたちはプロだから安心してよ。何度も男を締め落としまくってきて限界ぎりぎりを把握してるからさ。ま、何人か、意識が戻らなくなっちゃうだろうけど、死ななきゃいいよね」

 そこまできて、ぐいっとエリカの両腕に力がこもる。たくましい大蛇のような腕が隙間なく大輝の首に巻きついて、哀れな獲物を締めつける。

「お兄のことも、まだまだ締め落とす」

 耳元で。

 愛を囁くように。

「覚悟しろよ」



* サンプルはここまでです。

* 続きは有料版をお願いします。

* 続きは、約3万5000文字くらいです。



つづく