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明日香に締め落とされる毎日。
それは英雄にとって地獄の日々だった。
地獄。
そのはずだった。
それなのに、夜一人になると脳裏に浮かぶのは明日香の姿だけだった。
「明日香・・・・・・・」
自分よりもはるか年下の少女。
しかし、その体は誰よりも豊満で育ちきっている。
そんな少女の体に毎日毎日手も足も出ずに負けるにつれて、英雄は夜、彼女の姿を思い浮かべて悶々とする日々を送っていた。
「俺とは比べ物にならないほど強い・・・・・明日香の体」
脳裏に浮かぶのは彼女の魅惑的な肉体の姿だ。
あの太もも。
あの大きなおっぱい。
それとは不釣り合いな幼い顔立ち。
自分とは比べものにならないほど高い身長と逞しい体。
それを脳裏に思い浮かべると、英雄は自分の肉棒が固くなるのを感じた。
「明日香・・・・・・様」
その言葉。
周囲の男たちが絶叫して許しを乞いている名前。
それを唱えたとたん、自分の体がビクンと震えるのを感じた
思い浮かべるのは明日香に締め付けられている自分だ。
あの逞しい太ももに挟まれて、
あの太い腕に潰されて
あの大きな手に首をわし掴みにされて、
そして締め付けられる。
苦しい。けれど、それ以上に頭が真っ白になって頭がトんでいく感覚。それがどんどん自分の中に興奮として募っていく。
「だ、だめだ。俺は格闘家なんだ」
英雄は頭をぶんぶんと振って抵抗した。
この感覚に身を任せたらダメになる。
それが実感として分かった。
明日香の体。
その圧倒的な存在に身も心も捧げてしまったらどうなるか。
そうなってしまえば格闘家として終わりだ。
年下の、まだ初等部の少女に、自分が今まで打ち込んできた人生を丸ごと否定されてしまう屈辱。英雄はなんとか脳裏に浮かぶ魅力的な明日香の体を打ち払って、ポジティブなことを考えようとした。
「もう少しで、師範が帰ってくる」
英雄はカレンダーを見上げた。
1週間後、師範が外国から帰ってくる。
世界大会の様子は遠く日本にまで届いていた。
それは世界的ニュースだった。
師範は、アジア人で初めて、世界大会で優勝したのだ。
その様子を英雄はインターネットで食い入るように見つめた。
自分たちブラジリアン柔術教室の誇り。
男として最強な存在となった師範。
そんな世界最強の称号を手にした男が、道場に帰ってくるのだ。
「師範なら、明日香のことを止めてくれるはずだ」
自分では力不足だった。
師範の代わりはできなかったのだ。
これまで師範が明日香のストッパーになってくれていたのだろう。だからこそ、師範が留守の今、明日香は歯止めがきかず、やりすぎてしまっている。自分には止めることはできなかった。けれど、師範が帰ってくればもう大丈夫だ。
「もう少しだ。もう少しの辛抱だ」
英雄は決意を新たにした。
師範に明日香を止めてもらうこと。
それだけを希望にして英雄は、明日からもがんばろうと、そう思った。そんな英雄の意識とは裏腹に、彼の肉棒はバッギバギに勃起していた。
●●●
「今日は首絞め処刑をします」
ニコニコ笑いながら明日香が言った。
さんざんにスパーリングで絞め落とされた後。
英雄は自分が明日香の玩具にさせられるのを感じた。
「いきますよ、師匠」
明日香の巨体が近づいてくる。
英雄はひいひいと怯えながらも逃げることができない。
あっという間に、英雄は背後からチョークスリーパーで首を絞めあげられ、吊るされてしまった。
「は~い、首絞め処刑の開始で~す」
背後からのチョークスリーパー。
明日香の巨体が小さな英雄を圧倒してしまっている。
「ほら、がんばってください師匠。これくらいの高さなら、師匠の短い脚でも床につきますよ?」
明日香の言葉どおり。
片方の足を限界まで伸ばせばかろうじてつま先が床に触れることができる。しかしそれは本当にかろうじてという程度でしかなかった。床に触れていたつま先はすぐに浮き上がり、がっちりと固められた明日香の両腕にぶらさがって首を絞められる。
「カヒュウーー」
苦しい。
だから英雄は床を求めてつま先を伸ばす。
(なんとか・・・・・なんとか足を・・・・・)
一生懸命に片足を伸ばす。
限界ギリギリまで足を伸ばせば床に届く。そんな絶妙な位置に吊るされているのが英雄には分かった。だからがんばれば助かる。背後から首を絞められ、宙づりにされても、足さえつけば殺されなくてすむのだ。
(くっそ・・・・あと・・・・・少し・・・・・)
必死に片足を伸ばす。
ぎりぎり。
骨盤から股関節が離れてしまうくらいに片足だけを伸ばして、ようやく地面に片足のつま先が触れた。
「ひゃ、ひゃった」
助かった。
英雄がそう思った瞬間、ずるっとつま先がすべって、またしても完全に宙づりにされてしまった。
「ふふっ、残念でしたね、師匠」
明日香は腕を持ち上げていない。
ただただ英雄の足が短すぎて床に届かなくなってしまったのだ。
(く、くそ・・・・・もう一度・・・・・・)
必死に足を伸ばす。
プルプルと脚を震わせて、顔を真っ赤にさせて命をつなごうとする。
それだけ必死にがんばって・・・・・・ようやく一瞬だけ床につま先がつく。吊られていた状態から解放されて―――すぐにまたしてもつま先が床から離れてしまった。足が地面につかなければ吊るされる。チョークスリーパーで吊るされ、自分の体重が自分の首を絞めてしまうのだ。それが続いていく。
「カヒューーッ!」
苦しみ悶え、足を伸ばす。
それが繰り返される。
英雄がダンスを踊り始めた。
床を求めて必死に足踏みをしてつま先をなんとか床につけようと必死の努力を続ける滑稽な死のダンス。
がんばればかろうじて片足のつま先が床に触れる程度に調整された首絞め宙づりによって、英雄が何度も何度も足を伸ばしては空振りし、滑稽な死のタンスを披露していく。
「あはっ! 師匠、ダンスがお上手ですね」
「カヒューーッ! カヒュウーーッ!」
「ほら、もっとがんばらないと死にますよ? がんばって足を床につけないと殺されてしまいます」
ミチミチミチッ!
英雄の首にまきついた二本の逞しい腕に、さらに力がこめられる。
気道だけを押し潰した肌色たっぷりの筋肉質な腕。
柔らかそうな筋肉と脂肪に覆われた女性の腕によって、英雄は絶妙な高さで吊るされ、ダンスを踊り続ける。
「明日香は絶対にこの高さを継続しますからね」
「カヒューーッ! カヒュウウッ!」
「師匠はがんばって足を地面につけようとするしかないんです。ダンスを諦めた瞬間に師匠は死にます。明日香の両腕に吊るされて、絞首刑が完成してしまうんです」
「カヒュウーーッ! かひゅううっ!」
「明日香の腕の中でブラブラ揺れる死体になんて、師匠はなりたくないでしょ? だったらがんばらないと。みじめな窒息ダンスを一生懸命踊ってください」
英雄がダンスを踊る。
地面を切望して足を滑稽に伸ばしていく。
それでも無駄だ。
短い足が地面に届くはずがない。
(チビだから・・・・・俺が明日香よりもチビだから・・・・・地面に足が届かない・・・・・)
年下の女の子よりも身長が低い。
何年も余分に生きて成長する機会があった自分のほうが劣っている。
だからこそチビな自分は吊るされ、命で遊ばれて、ダンスを踊っていくしかないのだ。
英雄の心に諦めが浮かんでくる。
(無駄・・・・・・もう・・・・・・無駄なんだ・・・・・・)
どんなにがんばっても無駄。
足を伸ばしても届かない。
宙づりにされて首を絞められる。
「カヒュウーーーーッ!」
悶え苦しむ。
自分の首には逞しい少女の両腕が巻きついている。
勝てない。
殺される。
いや死ぬことすらできない。
絶妙な高さで吊るされて、かろうじて一瞬だけ足が地面にかするせいで呼吸ができてしまう。
窒息できないギリギリの呼吸だけが許されて、気絶という安息すら奪われる。
ずっと、
ずっとこのまま。
明日香の玩具になって、彼女を楽しませるために死のダンスを踊っていくしかない。
(助け・・・・・・助けて・・・・・)
苦しむ。
悶えて暴れてダンスを踊る。
それでも許されない。
足をバタバタ動かし、地面を求めて滑稽なダンスを踊り続ける。
それがずっと、
永遠に続いた。
(解放されたい・・・・この地獄から・・・・解放・・・・・・)
ついに英雄の心が折れた。
死のダンスが唐突に終わる。
ブランと垂れさがった英雄の死体。
年下の少女によっていたぶられた男は、自分から進んで明日香の両腕に体重を預け、完全に吊るされてしまった。
「あはっ、師匠、もう諦めるんですか?」
明日香が笑う。
「体をダランと脱力させて、自分から首を絞められにきてますね」
「かひゅうーーーかひゅーーーー」
「気絶したくて生きることを諦めてしまいました。足を伸ばせば少しだけでも呼吸できるのに、それすらも諦めて足を自分から折り曲げてしまいましたね。首吊り自殺の完成です」
ぎゅうううううッ!
明日香が両腕に力をこめる。
男の意識を完全に刈り取るために力強い首絞め。
英雄の視界がブラックアウトする。
殺される恐怖。
しかしさんざんにいたぶられた今となっては、英雄にとって気絶とは救いに他ならなかった。
(楽に・・・・・もう・・・・・楽になれる・・・・・)
気絶する。
その一瞬。
明日香がニンマリ笑った。
「はい、息継ぎしてください、師匠」
両腕の力が緩められる。
絶望に英雄の顔が歪む。
吸いたくなくても吸ってしまう。
体が自動的に呼吸をしてしまうのだ。
自分のことを苦しめてしまうと分かっていながらも、英雄は「ゴッボオッ!」と空気でえづきながら、貪るように酸素を肺に補給してしまった。1分・・・・・2分・・・・・。えづきながら呼吸をする男を背後から明日香がじっくりと観察している。ようやく呼吸も整ってきた男にむかって、明日香が無慈悲に宣告した。
「これで師匠は気絶もできません」
「ああああああッ!」
「残念ですね。またダンスのお時間ですよ?」
腕の力が少しづつ増していく。
その絶望と恐怖。
英雄の頭はおかしくなった。
「ゆるじでええええッ! もうひゃめでええええッ!」
絶叫。
涙を流し、顔を絶望に歪ませながら、妹弟子の腕の中に絶叫する。
「たじゅげでえええッ! もう、もうやめでくださいいいッ!」
「あはっ、泣き入っちゃいましたね」
「やめでえええッ! ひと思いに絞めでえええッ! 絞めで気絶させでえええッ!」
明日香の両腕の中で暴れ始める。
じたばたと、宙づりにされている男が、少女の腕の中で命をかけて暴れ続ける。
しかし、体格差が違い過ぎて男が暴れてもどうにもならなかった。
明日香の巨体は地面にどっしりと足裏をつけて巨木のように仁王立ちして、チビ男を持ち上げ、宙づりにしてしまっていた。またしても滑稽な死のダンスが始まる。
「ほら、がんばって足を地面につけてください」
「かひゅうーーーッ!」
「限界がきたらまた息継ぎさせてあげますからね。がんばりましょう、師匠」
悪魔。
男がもがき苦しむ様子を見て悦ぶサディスト。
そんな恐ろしい女性の腕によって首を絞められ宙づりにされながら、英雄はぽろぽろと涙を流して絶望する。
(俺じゃあ・・・・・明日香には勝てない・・・・・)
骨の髄まで分からされる。
それでも一つだけ希望があった。
それは、
(師範・・・・・・もう少しで師範がかえってくる・・・・・)
世界大会で優勝した強い男。
自分よりも身長が高くて、強い男が、この道場に帰ってくるのだ。
(師範が帰ってくれば・・・・・・大丈夫だ)
師範が帰ってきさえすれば、この地獄から解放される。
明日香のことを止めてくれる。
この絞め落とし地獄が終わってくれるのだ。
(それまでの・・・・・師範が帰ってくるまでの辛抱だ)
師範が最後の希望だった。
英雄は明日香に宙づりにされて、首を絞められながら、師範が帰ってくることだけを希望にして、いつ終わるかも分からないダンスを踊り続けた。
つづく