「町田くんったら、そんなボールもとれないの?」
体育の授業は、町田にとって拷問にかわっていた。
今、町田はレガースやプロテクターを完全装備して、千鶴のボールを受けていた。
キャッチャーとして、千鶴のボールを受けているのである。
野球とは違って、ピッチャーとの距離がやけに近く感じた。
千鶴の球はすさまじかった。
下投げで、どうやってここまで速いボールが投げられるのだろうかと、町田は絶望にかられながら思う。
そんな町田の恐怖には無頓着に、千鶴はニコニコと笑いながら、ボールを町田に投げ続けていた。
「それ!」
ドスウウン!!
「うぐ・・・・・・」
またしてもとり損ね、ボールは町田の腹に直撃していた。
プロテクターをつけているというのに、すさまじい衝撃だった。
思わず町田は、体を二つに折り曲げ、前のめりに倒れ込んでしまった。
それは、ピッチャーマウンドにたつ千鶴に、土下座をしているようにも見えた。
「あはは、へったくそ〜」
「うううう」
町田は痛めつけられていった。
千鶴としては単なるピッチング練習をしているつもりなのだろう。
しかし、町田にとってそれは、普段の調教と何一つかわらなかった。
ど迫力の大きなボールが自分の体を射抜いていく。
たまたまミットに入ったとしても、衝撃で手が痺れた。
町田は、千鶴が投球モーションに入るたびに、ガクガクと震えながら、恐怖に耐えることしかできなかった。
(ううう、なんで増田さんは、こんなにもすごいんだ・・・・・なにをしたって、僕は増田さんには勝てないんじゃないか?)
町田は、好きな女の子に圧倒され続けることに焦燥感を覚えていた。
ソフトボールだけではない。ありとあらゆる身体能力で、自分は彼女よりも格下なのだ。
町田は、日々の調教を受ける中で、千鶴に対する劣等感をさらに募らせていた。
(昨日も一昨日も、僕は増田さんに手も足もでずに、調教を受けて・・・・)
そのときのことを思うと、思わず町田は背筋を凍らせた。
千鶴は、日常生活の中で、隙をみつけては町田のことを虐めているのである。
千鶴にとってみれば、その行為は、町田のことを思った行動であり、虐めではなく教育なのだろう。
しかし、町田にとって、それは凄惨な虐め以外のなにものでもなかった。
昨日は、当番だった理科室のそうじ中に調教を受けた。
理科室は実験などを行う広い教室と、その隣にある実験器具などを並べた理科準備室からなっている。
その理科準備室の掃除を、千鶴と町田の二人きりに任されたのが、彼にとっての災厄だった。
理科準備室という狭い密室に二人きりになった途端、千鶴は町田の背後にまわりこむと、勢いよくその首を絞めあげた。
「えへへ、今日は町田くん、3時間目の休み時間に、わたしの脚見てたよね? これはそのときのお仕置きだよ♪」
ほとんどこじつけのような言葉をもって、千鶴が容赦なく町田の首を絞めあげた。
背後からのチョークスリパー。
町田の背中には、制服ごしにではあるが千鶴の大きな胸が押しつけられていた。
しかし、町田に、その感触を楽しんでいる余裕はない。
「ヒュー・・・・やみゃ・・・ヒッギぃ・・・・・」
息も絶え絶えといった様子で、必死に体をジタバタと動かし、なんとかその拘束から逃げようとする町田。
しかし、彼の首に食い込んだ、千鶴の腕は、容赦なく彼の呼吸を奪い、意識をかりとりにかかっていた。
千鶴の長く、美しい腕。ソフトボールで鍛えた柔らかそうな筋肉の筋が躍動し、男の抵抗をすべてシャットアウトしていた。
「えへへ、ほんとうは、町田くんの可愛い悲鳴をいっぱい聞きたいんだけどね。さすがにここで泣き叫ばれたら周りにバレちゃうからさ。今日は徹底的に、窒息責めで調教してあげるよ」
千鶴は笑顔だった。
いつもの悲鳴ではなく物足りなかったが、千鶴は町田の口から漏れるうめき声をうっとりとしながら聞き入っていた。
今までの調教で、町田の限界はわかっている。
千鶴は、町田が墜ちるというギリギリのところで、ひたすらに背後から、首を絞め続けていった。
「あはっ、町田くんの目、裏がえっちゃった〜。右の黒目だけがちょっと残ってるのが、なんだかそそられちゃうかも」
「ヒュー・・・ぎぎ・・・ひゃ・・・・」
「あ、もう限界だね。はい、ちょっと緩めてあげるから、いっぱい息吸うんだよ?」
言葉どおり、少しだけ腕の力を緩めてやる。
千鶴の腕は、町田の首に食い込んだままである。息をすることはできるが、声をあげることはできない。
そんな絶妙な力加減で、千鶴は町田のことを生かさず殺さず、徹底的に虐めていった。
「はい、再開!」
「ひぎいい・・・・・ぎゃ・・・・」
「町田くん、今度は30秒がんばってみようね。いっぱい手加減してあげるから、30秒間、気絶しないようにがんばろう!」
心底、うれしそうな千鶴だった。
町田の下半身は早々にして力を失い、ガクンと膝から地面におちた。
もちろん、千鶴は力を緩めない。むしろ、膝を地面についてくれた方が絞めやすいとばかりに、さらに腕に力をこめていった。
「ふふふ、いま、町田くんの後頭部に、わたしの胸あたってるんだよ?」
言うとおり、地面に膝をついたせいで、町田の後頭部には千鶴の大きな胸が押し当てられていた。
しかし、目を裏返し、ひゅーひゅー、とかすれた息しかできない町田に、そのことを認識できるはずもない。
千鶴はゆっくりと腕に力をこめながら、その痴態を後ろからのぞきこんでいった。
町田の頭の上に、顎をのせ、じいっと町田の苦しむ様子を見る。
ニコニコと笑顔で、たいした力をいれているようには見えないのに、男の力を圧倒する美しい少女。
千鶴は、その掃除の時間中、町田のうめき声を聞きながら、恍惚とした表情を浮かべていたものだった。
こうして、千鶴の調教は日々、日常生活の中で繰り返されていた。
昼休み、女子ソフトボール部の部室に呼び出され、永遠と腹に膝蹴りをくらったこともあった。
部活が終わったあと、誰もいなくなったグラウンドで、胴体を大蛇のような太股で挟まれて、泣き叫ばされたこともあった。
なにかの拍子に教室に二人で残されると、たちまち抱きしめられ、ベアハッグで身を潰された。
ニコニコと笑う彼女に、顔が変形するほどのビンタも受けた。
町田は、そのすべてに、なすすべをもたなかった。
反抗しても千鶴の力を前にしては、無駄なあがきにしかならなかった。
もうやめてくれ、という言葉は、そんなことを言って彼女の逆鱗にふれることになってはどうしようという臆病風によって口からでることはなかった。
しかし、町田は、今度こそ、千鶴に一言、ガツンと言ってやろうと、そう決意を固めていた。
それは、夏の大会が近づいてきたという事情が関係していた。
いちおう、町田はチームのレギュラーとして、3番キャッチャーという重責をになっている。
そんな自分が、千鶴から受ける調教でケガでもしたら大変だ・・・・・そのような建前のもとで、町田は千鶴に対して、調教の中止をもとめることにしたのだった。
(そうだ・・・・・毎日毎日、こんなに理不尽に虐められて・・・・・毎日毎日、女の子にボコボコにされて・・・・)
心の中で言葉を紡いでいると、あまりの自分の情けなさに泣きそうになる。
しかし、町田は覚悟をもって、ある日の放課後、千鶴に話しかけることにした。
それは、クラスメイトのほとんどが、部活や帰宅をとげた後、二人っきりの教室の中での出来事だった。
「え? 夏の大会が終わるまで、調教はやめてくれって?」
意を決して言った言葉に、千鶴は惚けたような声をあげた。
町田は、内心ガクガクと震え上がりながら、目の前の美しい少女の言葉をまった。
「というか、町田くんってレギュラーだったんだ・・・・・・あまりにも、へたくそだったから、ベンチにも入れないと思ってたんだけど」
「そ、そんなことないよ。いちおう、3番バッターだし」
「町田くんが?」
心底びっくりしたような千鶴の様子だった。
何かの間違いじゃないかと、その瞳が町田に問いかけてくる。
その、明らかに格下に見られているという感じが、町田にいつもの劣等感を感じさせ、それ以上言葉を口にだせないでいた。
目の前の女の子は、ふう、と一つ、ため息をついてから言った。
「うん、まあそれじゃあ仕方ないのかな」
うつむいて膝を恐怖で震わせている町田に対しての残念そうな口調だった。
今度は町田が虚をつかれてしまい、思わず、
「え? 増田さん・・・・いいの?」
「うん、わたしも鬼じゃないしね。町田くんよわっちいから、いくら手加減してるっていっても、ケガしちゃうかもしれないからね。特別に勘弁してあげるよ♪」
どう考えてもおかしな言葉だったが、町田は、あの地獄の日々から解放されると思うと嬉しすぎて、晴れやかな笑顔になった。
いつなんどき、千鶴に調教を受けることになるかと怯え続ける日々が終わる。
そのことが、町田にとっては心底嬉しかった。
「そのかわり・・・・」
安堵する町田の様子が気に入らなかったのか、千鶴は嗜虐的な表情をどこかのぞかせて言った。
「夏の大会が終わったら、容赦なく再開するからね。大会までの間も、女の子の体、えっちな目で見てたら、きちんとカウントとるから」
「そ、そんな・・・・」
「さっきも、二人きりになったとき、町田くん、わたしの背後から、太股見てたもんね。えへへ、気がつかないと思った? それもちゃんとカウントしてるからね」
「うううう・・・・・」
「えへへ、試合が終わるのが楽しみだね。あと、夏の大会でふがいない結果だしたら、もっとひどいことするからね。実は、その予定もしっかりたてたりしちゃったりして・・・・・」
「ひい」
そのとき、千鶴の瞳に浮かんだ光を見て、町田は背筋が凍った。
天真爛漫という様子はなりをひそめ、男を虐めることにどん欲なサディスシャンの目。
目の前の獲物をどうやって料理してやろうかと、今にも舌なめりしそうな千鶴を見て、町田は心底恐怖した。
(僕は・・・・・やっぱりとんでもない女の子を好きになっちゃったんじゃ・・・・)
そう思っても、町田はすでに、千鶴の魅力の虜になっていた。
彼自身、千鶴の嗜虐的な表情を見て、自分の心臓ドクンと一回、それまでとは違う意味でなったことに気がついていなかった。
つづく