ビルの中。
荒れ果てた建築物の中に、私たちは集合していた。
そこは、とうの昔に倒産した会社の自社ビルだった。
窓ガラスは割られ、核戦争後の荒廃さながら、そのビルの中は荒れていた。
蛍光灯はなく、明かりは周囲の建物から漏れてくる微弱な明かりだけだ。
薄暗い。
そんな中で、総勢50名の同士たちが集結していた。
「いよいよですね、隊長」
かたわらの男が私に言った。
「ああ、そうだな」
「それにしても、こんなすごい武器、よく集められましたね」
男はそう言うと、手元の銃火器をカチャリと揺らした。
アサルトライフル。
戦争がまだあった時代に、陸上部隊が装備していたという武器だ。
女性上位社会ができてから、この手の武器の生産はストップしていた。
女性には能力があり、こんな武器に頼る必要なんてなかったからだ。
これが必要なのは、我々男性のみ。能力を使えない男性しか使用しないものを、生産し続けるわけがなかった。
その生産中止になった武器を、上層部がどこからか見つけてきたのだらしい。
女にバレない場所に工場を建設して、日夜武器の生産をしているとの噂もある。
組織の力は盤石だ。
私は、手元のアサルトライフルと、周囲の同士たちを心強く思った。
この部隊のリーダーを上層部から任されている身としては、なんとかして作戦を成功させなければと、改めて覚悟を決めた。
「それにしても、最近の懲罰委員会の活動は相当に活発になっているみたいですね」
さきほどの男が言葉を続けた。
私は気になり、質問していた。
「確かに、指令でもそういうことを言っていたが、それは本当なのか?」
「ええ、本当らしいですよ。何度か組織にも手が入ったみたいで・・・・・・一部所が壊滅させられて、後にはおびただしい数の男の死体が残っていたそうで」
「壊滅、か」
「ええ。噂では、そのとき幹部の一人が生け捕りにされたっていう話です。まったく、怖いもんですな。年端もいかな女子学生が、ここまで残酷になれるんですから」
「そうだな」
「中でも「拷問狂」と「撲殺悪魔」のコンビが凶悪らしいです。こいつらは、生きたまま人間を解体するらしいんですが、「撲殺悪魔」は、能力を使わずに、素手で人体を破壊するのを好んでいるらしくてですね。彼女が通った後には撲殺死体しか残らないみたいで」
信じられない・・・・・いや、信じたくもない言葉。
それがまるで予言になった。
パラララと、どこか場違いな甲高い音が響いた。
最初、なんの音だか気づかなかった。
少しして、それがなんの音か分かった。
「誰かが発砲している?」
アサルトライフルの発射音。
それと共に、どこからか男の悲鳴が聞こえてきた。
魂の絶叫。
断末魔の悲鳴。
それが最上階のここまで聞こえてきたとき、私はすべてを理解した。
下の階の見張りが、何者かに殺された。
「まさか、バレたのか!?」
全身が寒気におそわれる。
パニックは周りの同士たちにもうつっていった。
懲罰委員会にバレた。
私たちの計画がどこかで漏れていた。
そうなればどうなる?
決まっている。
虐殺だ。
「落ち着くんだ、みんな!」
私はパニックを落ち着かせるために大声をあげた。
同士たちが私のほうへ注目する。
その目には怯えが浮かんでいた。
当然だ。
私だって怖い。
下の階からはアサルトライフルの頼りない火薬の音と、ビルが揺れるほどの衝撃、そして男たちの悲鳴があがり続けている。
そんな中で、恐怖を感じないなんて不可能だ。
「それでも、私たちは誇り高き組織の一員だ」
私は、自分に言い聞かせるように、総勢50名の同士たちに語りかけた。
「私たちには武器がある。これはなんのためにあるんだ? 戦うためじゃないのか? 今まで、女性に虐げられてきた男の意地を見せるためのものじゃないのか? そうだろう? 私たちは、そのために戦う決意をしたんだろうが!」
私の怒声に、同士たちは落ち着きを取り戻していった。
皆、手元の火器をお守りのように握りしめ、闘志に瞳を燃やす。
私は、アサルトライフルを握りしめながら言った。
「戦うんだ! 私たちは! ここで! この武器で!」
「おう! おう! おう!」
「私たちには武器がある! 恐れるものはない! 今こそ、こいつで、女性たちに目にもの見せてやるぞ!」
おおおおおお!!
歓声があがる。
私は、力強くアサルトライフルを頭上にかかげた。
私たちの力の象徴。
能力をもたない私たちは、その武器を信頼し、心酔し、信仰するしか残された道はなかったのだ。
しかし、
「え」
武器を頭上に掲げた瞬間、異変が起きた。
手にもったライフルが、ぐにゃりと飴細工みたいに溶けてしまったのだ。
あっとういう間に、私たちの生命線だった武器は鉄くずに変わってしまった。
突然の事態に理解がおいつかない。
なにが起きたのか、私には分からなかった。
その答えを言う声がすぐに響いた。
それは、よく知った声だった。
「ごめんね。そんな武器、私たちには通用しないんだよ」
最上階につながる唯一つの入り口。
そこから、見事なプロポーションの女性が現れた。
彼女は、黒のエナメルで出来た衣装をまとっていた。
ほとんど裸といったもいいような、露出が高い衣装だ。
長い脚を強調するように、お尻の割れ目さえ視認できような短いレーザーパンツ。
ヘソは丸だしで、鍛えぬかれた腹筋が美しく、そして色気たっぷりに露出している。
その上の胸はこぼれんばかりで、申し訳程度に黒のエナメルで隠すべきところを隠していた。
誰もがその衣装を夢に見たことがあった。
ひょっとしたら計画が失敗に終わったとき。
ひょっとしたら私たちの活動が失敗に終わるとき。
必ずその衣装を着た少女たちが、そばにいるはずだった。
懲罰委員会の制服。
懲罰時にしか着用を許されない、女性であることを強調した制服だ。
悪夢にまで出てきたその衣装。
しかし、私にとっては、そんなことどうでもよかった。
その衣装を着ている少女にこそ、私の目は釘付けになっていた。
「そんな・・・・・バカな・・・・・・」
驚愕の声をもらす。
ありえない。
こんなことがあってはならない。
彼女が・・・・・・まさか、
そんな!!
「それじゃあ、これから懲罰を始めるよ。泣き叫んだって、許してあげないからね」
そこにいたのは、まぎれもない、私の娘。
天使のように優しく、可愛らしい少女。
私の実の娘が、悪魔の衣装に身を包んで、死刑執行場に現れた。