悲鳴をあげると殴られる。
マウンドポジションから、避けることのできない一撃が振ってくる。
その力は、それまで俺がもっていた女性像を拭い去るに足りるものだった。
俺も男とケンカしたことはあるが、殴られてもここまでダメージを負うことはなかった。
奈津美の拳が直撃するたびに、意識が刈り取られそうになる。
人の肉体を壊す打撃音がすさまじい音量で響く。
そんな打撃を受ければ、誰だって悲鳴をあげるだろう。
だから俺も、女のような悲鳴を―――絶叫をあげるしかなかった。
「ひひゃああ!! やめ、やめてッギャアア!!」
「……また悲鳴。おしおきだよ」
ボッグウ!!
「ぐわああああ!!」
しだいに拳が間断なく降り注ぎ始めた。
馬乗りになり、右こぶしで殴ったかと思うと、すぐさま左こぶしで顔面を殴る。
滅多打ちだった。
格闘技の試合であるような、滅多打ち。
病弱で、いつも俺の後をついてくるだけだった可愛い幼馴染は、2歳年上の俺をはるかに上回る腕力を身につけている。
大砲級のパンチに、俺の胴体を軋ませる太もも。
段々と、俺の意識が朦朧としていくのが分かった。
「これ以上やったら、さすがにマズいかも……」
いきなり、奈津美の殴打が止まった。
そのまま、俺の脹れあがった顔を見下ろしてくる。
「これ以上殴ったら、翔ちゃんのこと壊しちゃうもん。もう、本当に弱いんだから」
「あ、アア……」
「しかたないなあ、悲鳴については、あとでたっぷり調教することにするね?」
「な、奈津美……もう…ゆ、ゆるして……」
命乞いをする。
昨日まで庇護する対象だった人物に向けて、心からの命乞いをする。
しかし、
「―――奈津美『様』でしょ?」
「ふッっぐううう!?」
いきなり、俺の胴体にまきついた奈津美の脚が力をもった。
俺の体を壊しながら、奈津美はジイっと俺の苦痛に歪む表情を見下ろしてくる。
その視線は、しつけのなっていない駄犬を見るようなものだった。
仕方ないなあ、とでも言いそうな、侮蔑にいろどられた表情で、奈津美は俺のことを見下ろしてくる。
「二人っきりのときはいいけど、こういう公の場では様づけて呼ばないとダメでしょ?」
「ヒッギャ……アア…ひい!!」
「ねえ翔ちゃん、分かったの? 悲鳴ばっかりあげてないで、なんとか言ってよ」
ぐいっとさらに脚に力がこもる。
スカートから伸びる奈津美の生脚に、くっきりと筋肉のスジが浮かび上がった。
「やみゃああ……やめて、ギャぎいい!! 潰れて、ヒャアア! 潰れてるからああ!!」
「ダメだよ翔ちゃん。命乞いのときは『やめてください』でしょ? 女の子にむかってそういう口の聞き方しちゃダメだよ」
あくまでも、俺の過ちを正そうとするだけの奈津美。
その事務的な態度が、なんとも恐ろしいものに思えた。
「ほら、ちゃんと命乞いしてみて。『許してください奈津美様。お願いします』って言わなきゃダメだよ。早くしないともっと力こめるよ?」
「ひ、ヒッガグ……ぎゃあ…」
「あ、口から泡がでてきちゃったね。それに目も白目になっちゃったし……翔ちゃん、早くしたほうがいいよ? このままじゃ死んじゃうもん」
ミシミシと……軋み、時々バギバギっと骨がどうにかなる音が、自分の体の内部から聞こえてくる。
大蛇のような奈津美の太もも。
病弱だった頃とは比べ物にならないような、艶かしい脚線美。
奈津美は、両脚だけで俺のことを制圧してしまった。
手も脚もでず、奈津美の言いなりにされる。
……こ、こんなはずじゃなかった。
中学校にはいってからも、俺が奈津美のことをリードして、引っ張ってやろうと思っていたのに……。
小学校でそうしてきたように、部活や勉強などで、俺が奈津美を手助けしてあげようと、そう思ってきたのに。
強い。
間違いなく、奈津美は俺よりも腕力が強い。
そのことが、何よりもくやしくて、惨めだった。
一方的に……まるで犯されるようにして、虐められる。
2歳も年下の幼馴染に……。
昨日まで、妹のような存在だった少女に……。
俺は、完膚なきまでに叩きのめされていて―――。
「もうっ! 言っても分からないなら、その体に覚えさせるしかないね! 翔ちゃん、ちょっと手荒くなるかもしれないけど、我慢するんだよ?」
いつまでも命乞いをしない俺に業を煮やしたのか、奈津美はそう言って、調教のレベルをあげた。
そこから始まったのは、拷問である。
腕ひしぎ十字固め。
そのふくよかな脚を俺の手にまきつかせ、グイっと体をそらして、地獄が始まった。
俺がいくら悲鳴をあげても、決して許すことなく、俺の両腕を軋ませたその技量と怪力。
俺の両腕は、10分たらずで使い物にならなくさせられてしまった。
さらには、膝四の字固め。
俺の顔をジイっと観察しながら、別段その行為を楽しんでいるという様子もなく、奈津美は俺の脚を壊していった。
その大人っぽさと子供っぽさを内包した表情で見つめられながら、今まさに自分の脚を壊されているかと思うと、精神的にもきついものがあった。
さらには数々の絞め技。
コブラツイストやらアルゼンチンバックブリーカーなどなど。
奈津美はありとあらゆる技をかけて、俺の体と精神を軋ませていった。
とても耐えられない。
俺はそう思った。
強制的に悲鳴を搾り出され、涙と鼻水でグショグショになった醜い顔を奈津美に凝視される時の羞恥心。
幼馴染である2歳も年下の少女に、心からの命乞いをする屈辱。
肉体的な痛みはもちろんだが、それ以上に精神的なダメージが計り知れないものがあった
そうやって熾烈な調教を受ければ、誰だって心が折れる。
抵抗しようにもそんなことは無駄。
男としての全力が昨日まで一緒に遊んでいた年下の幼馴染に封殺され、さらには自分とは比べ物にならない怪力で体中をボコボコにされれば、認識だって変わる。
俺は奈津美には勝てない。
というか、男は女の子には勝てない。
その歴然たる事実が、しだいに俺の体に刻まれていくことになった。
精神的に犯されるというのは、こういうことをいうのだろう。
最初はあった抵抗心と反抗心が、段々と薄まっていくのを感じた。
男のプライドも何もない裏返った悲鳴をあげ、奈津美に対して命乞いを繰り返すうちに、自分の中の大事なものがなくなっていくのに気付く。
それほどまでに、奈津美の調教は凄まじかった。
もう分かりましたから……。
男より女の子のほうが強いことは分かりましたから……。
だからもう……
だからもう、許して!
お願いします、奈津美様!!
「はーい、40秒経過。あと20秒、がんばろうね」
「ヒッっが……ひゅーひゅー」
「すごいね。窒息死ギリギリになると、人ってこんな息の仕方するんだね」
奈津美は、俺にスリーパーホールドをかけていた。
背後から抱きつき、その両腕を俺の首にまきつかせて、首を絞める。
しかし、頚動脈までは絞めない。
ただ喉だけ……空気の通り道だけを封殺する。
その結果、簡単には気絶することができなくなっていた。
苦しみだけがつのっていく。
開放されるなんてことはありえず、俺はその苦しみを甘受するしかない。
首の骨がゴリゴリと圧迫されて痛い。
奈津美の腕が口道を締めあげるたび、吐きそうな思いにかられる。
しかし、それさえ奈津美様は許してくれない。
俺とは比べ物にならない怪力で、俺の喉を締め上げ続ける……。
「すごいね、翔ちゃんの顔。チアノーゼおこしたみたに真っ赤……」
「ひヒャ……ヒュグウウ…ヒュー」
「それに、かろうじて黒目が残ってるけど、もうほとんど白目になっちゃってるね? しかも、舌が完全に口から飛び出ちゃってるし……」
俺の顔を、奈津美様は後ろから覗き込んでくる。
背中にあたる二つの大きな膨らみは、こんな状況でなければ垂涎ものの感触だろう。
後ろから抱きしめられるようにして、チョークスリーパーで首を絞められる。
奈津美様の腕がヘビのように首に巻きつき、締め付けてくる。
その二の腕の存在感。
女性特有の柔らかそうな筋肉にいろどられたソレは、とても魅力的だった。
圧倒的な身体能力の差でもって、俺はジリジリと犯され続けていく。
「はい、1分経過〜。よくがんばったね、翔ちゃん」
えらいぞー、と幼稚園児をほめるようにして、奈津美様は腕の力を緩めた。
……その役目は、今まで俺のものだったのに。
うまくできた時に、頭を撫でてやりながら褒める役目は、俺のものだったのに。
今ではまったく立場が逆。
保護の対象だった奈津美に嬲られ、出来の悪い生徒を見守る教師のように、俺のことを過剰に褒める……。
そのすべてが、俺に耐え難い精神的な打撃を与えていた。
「ハア、カハア、ハア! ハア!」
息を吸う。
肺が痛くなるまで息を吸って、なんとか呼吸を整える。
そうしないと、奈津美はすぐにでも―――
「翔ちゃん、休憩はあと30秒だからね」
「ハア、ハアグっ……な、奈津美……さま。もう、もう無理です。もう……」
「これくらいで根をあげちゃダメだよ。まだまだこれからなんだから」
「許して……ください。奈津美様、どうか……どうかもう許して……」
心の底からの命乞い。
幼馴染に向けた情けない命乞い。
それを聞くと、奈津美様は嬉しそうな声色で、
「よかった! 翔ちゃんも、段々と男のプライドがなくなってきたね。小学校までのことは全部忘れなきゃ、ここではうまくやっていけないから……うん、これならちょっと安心だよ」
心底嬉しそうな様子である。
きっと奈津美は、本当に俺のことを心配しているのだろう。
中学で俺がやっていけるように―――ただそれだけのために、こうして俺のことを調教しているのだろう。
それは、長年の付き合いから分かる。
奈津美がいきなり超人的な力を手に入れても、それを私利私欲のために使わないということは、俺にも理解できる。
だけど……
「でも、まだやめないよ」
「な、なんで!?」
「先生たちが言ってたんだもん。最初が肝心だって。だから、今日だけは徹底的に調教する。それが、翔ちゃんのためだもん。だから、ね―――」
「ヒイイイイ!!」
少しづつ、奈津美の腕に力がこもってきた。
それはゆっくりと……真綿で首を絞めるような緩慢さで、俺の喉が押しつぶされていく。
まだ息はできる。
だけど、奈津美のたくましい腕はすでに喉に食い込み始めていた。
「休憩終了だよ。じゃあ、続きをしようね、翔ちゃん」
「や、やめてく、だ、さギイ……」
まだそれほどの力はこもっていない。
かろうじて、息は吸える。
しかし苦しい。
もう俺の首は奈津美の両腕に包み込まれていて、身動きがとれない状態だ。
その中で、奈津美はイッキに絞めあげるのではなく、段階をふんで力をこめていった。
「ゆっくり力がこもるよ〜。我慢我慢」
「ひ、ッギ……はやく、ひいい」
その恐怖感は並大抵のものではなかった。
あと少しすれば、空気なんて吸えるはずもない絞めつけが待っている。
それを前にして、いたぶるようにゆっくりと力がこもっていくのを感じるのは、狂ってしまいそうになる。
しかも、まだカウントがされていない。
それがさらに恐怖心をあおった。
「奈津美、さまああ……ギッギイ…ぐ、は、はやく、カウント……お願い、しま、ギュぎっ」
「まだだよ。まだダメ」
「そ、ん、……もう、絞まって、まギャッ…もう入って、ま、ずが……ら……」
息ができなくなる。
奈津美様の腕が喉を圧迫し、口道が潰れる。
ギリギリと、骨と喉の肉が潰れる音が響く。
それでも、奈津美様はカウントを始めてくれなかった。
1分間という時間の始まりをつげるカウント。
それがなければ、一生このまま……
「お、ねがギギ、しまあ!! す……ア…かッギャッギ…カウ、ントを、……」
「まだダメって言ってるでしょ? 奈津美がいいっていうまで我慢するの」
「お、おね、が、い……」
「翔ちゃんの生殺与奪の権利は奈津美が握ってるんだからね。そのことを翔ちゃんの体に徹底的に刻むの。ほら、もっと必死に頼まないと、カウントしてあげないよ?」
「ッギィイィ……か、ハア…お願いし、ま、ギィ…カ、ウ、……」
「なに? 聞こえないよ?」
息が、もう……
だけど、頼まなきゃ……
奈津美様に、許してもらわなきゃ……
死……
死んじゃ……
声が、
もう、声がでなくて……
「ふう、仕方ないな。じゃあ、特別に許してあげる。はい、カウント開始!」
「ヒッギャああッッ!!」
奈津美様は、「い〜ち、に〜い」とカウントを始めると同時に、さきほどまでとは比べ物にならない力を腕にこめた。
ゴリっという喉の骨が砕ける音が本当に聞こえた。
目が一瞬にして白目になり、舌が空気を求めて口から飛び出る。
体が無様に暴れて……
バタバタと脚で反動をつけて、なんとか奈津美様の拘束から逃れようとしている。
でも、無駄だ。
そんなことしても無意味である。
奈津美様はなんでもないように、俺の体を拘束し続けている。
俺の力なんてなんでもないのだろう。
耳元では「くす」という忍び笑いが聞こえた。
無駄と分かっていても暴れずにはいられない俺が滑稽だったのだろう。
カウントを続けながら、俺の痴態を観察している奈津美様の視線を感じた。
「さんじゅう……ほら頑張って翔ちゃん。あと半分だよ」
と。
すさまじい力でスリーパーホールドをかけられているその時。
俺は、救いの女神がやってきたのを聞いた。
それは、スピーカーの音で、
『それでは、あと5分ほどで、入学式を終了したいと思います。これから6年間。みなさんの成長と発展を願っています』
入学式が終わるのだ。
周りでも、散々虐められていた男子が開放されていく。
顔面騎乗で永遠と窒息させられていたものや、
尻の穴を犯され続けられてきたもの、
そのすべてが女の子から開放されて、安堵の表情を浮かべていた。
「あ、もう時間なんだ」
首を絞めながら、奈津美様が言う。
よかった。
もう、俺もやっと開放……
「うん、じゃあ最後に、命一杯締め上げて、堕としてあげるからね」
「な!? ッギャアアギいいいッッ」
腕が、さっきとは違うやり方でからみついて……
それは、喉を絞めつけるのではなく、首の側端部を重点的に絞めていて……
なんだかいきなり、目の前が真っ白に……
「ええと、頚動脈を絞めるのはこうでよかったんだよね。もっとこうだったかな」
ギュウウウウッ!!
「うわっ、翔ちゃんの体、ビクビク震え始めたよ? すごい」
もはや悲鳴さえあげられなかった。
全身を包み込まれるようににして、後ろから頚動脈を極められる。
苦しいとは思わなくて、
どこか、気持ちいような、そんな感触が全身に広がっていた。
(もう、無理だ。奈津美には、もう……)
最後まで手も脚もでずに、幼馴染にボコボコにされた。
その屈辱から逃れたいがためか、俺はあっさりと、奈津美の腕に意識を刈り取られた。
(続き)