その後、真由美ちゃんは僕のことを完膚なきまでに負かした。

 勝負は一瞬のうちにつき、僕の手はテーブルに叩きつけられる。

 僕の手の甲は次第に赤く腫れ上がり、痛みで感覚が麻痺してきてしまっていた。

 負けるたびに、服を脱がされた。

 一枚一枚、同級生の女の子の前で、服を脱がされる。

 女の子に力勝負で負け、衣服をはぎとられる。

 しかも、その様子を、真由美ちゃんはニヤニヤしながら凝視してくるのだ。

 彼女の視線が矢のように僕に突き刺さっているのが分かる。真由美ちゃんの視線はそれだけで力をもっていて、その力強い目の力に、ますます僕は逆らえなくなっていく。

 負ける。

 上着はすべて脱がされた。

 上半身は裸。

 くすくすという笑い声。

 真由美ちゃんからすると貧弱な僕の体を笑う声だ。

 そして負ける。

 さらに負ける。

 パンツ一枚にされて、負けて、そして、


「ううっ……うううう…………」


 うなだれて、屈辱のあまりうめき声が出た。

 ついに最後のパンツも脱がされ、僕は全裸になっていた。

 ジムのラウンジで、昼間は人が大勢いる場所で、僕は裸になっている。

 恥ずかしくて、僕は両手で自分の急所を隠していた。まるで後生大事なものを必死に守り隠そうとするように、僕は滑稽にも、両手で急所を隠そうとする。

 視線を上にあげることはできなかった。

 僕は完全に下を向き、真由美ちゃんのほうを見ないように、見ないようにしていた。


「手、どけなさい」


 冷たい声だった。

 自信満々で勝ち気な様子はなりを潜め、冷たく、人を従える女王のような声だった。

 ビクンと震える。

 僕は下を向いたまま、イヤイヤをするように体をもじもじさせるしかなかった。

 ふう、というため息がやけに大きく聞こえた。

 ラウンジが静まりかえる。

 沈黙。

 その痛いような静けさを真由美ちゃんの声が貫いた。


「ど・け・ろ」

「ひ、ひいいいい」


 底冷えのするような有無を言わせない声。

 その迫力に背筋が凍り、僕の両手が、僕の意思に反して、震えながら動くのを感じた。

 僕の意思は関係なく、体は既に、真由美ちゃんに完全屈服しているのだ。

 両手が開き、急所がさらけ出される。

 真由美ちゃんの前で、生まれたままの姿をさらけ出す。さらに、


「手は頭の後ろで組め」


 命令。

 自分が決して勝つことのできない絶対的強者からの命令。

 僕の手は震えながら動き、彼女の命令どおり、頭の後ろで組んだ。

 完全降伏の格好。もう抵抗しませんという明確な負け犬の格好だった。


「顔をあげて、私の目を見ろ」


 抵抗できるはずがなかった。

 僕の体は彼女の命令どおりに動き、顔をあげた。

 そこには、こちらをニンマリと見つめる女王の姿があった。


「ふふっ、勝てると思ってたでしょ」


 真由美ちゃんが勝ち誇って言った。


「筋トレして、強くなって、女の私になんて勝てるって、そう思ってたでしょ」


 加虐性に満ちた笑顔。

 真由美ちゃんは、こちらを心底バカにした表情で、絶対優位の立場から容赦のない罵倒を続ける。


「それなのに、女の子の私にまったく手も足もでずに完敗。私は半分も力出してないのにね。顔真っ赤にして、ぷるぷる震えながらがんばって……ふふっ、必死すぎて笑えたわ〜」

「あ、あああ……」

「おまけに完敗して服脱がされて全裸になって、私の命令でそんな恥ずかしい完全屈服の姿になっちゃって……ふふっ、面白すぎなんだけど」


 真由美ちゃんはそこで、じっとぼくの体を眺めた。

 下から上、そのすべてを、真由美ちゃんの視線が突き刺した。


「こんな貧弱な体で、ほんとに私に勝てるなんて思ったの?」


 ぷぷっと真由美ちゃんが笑った。


「筋肉だって私に比べればぜんぜんついてないのに。腹筋だって割れてないよね〜」


 じっくりと見つめられる。

 真由美ちゃんは椅子に座って優雅に足を組み、滑稽な見せ物である僕を鑑賞しているのだ。

 鑑賞の対象物。

 僕と真由美ちゃんとの間には越えられない大きな壁があった。


「ねえ良助、私とお前、どっちが強いのかな?」


 真由美ちゃんが言った。

 ニンマリとした笑顔で、こちらを見つめながら。

 僕は、その視線をはずすこともできずに、ただうめき声をあげるしかなかった。


「ねえ、どっちが強いの?」

「ま、真由美ちゃんです」

「そうだよね。じゃあ、敗北宣言しようか」

「え」

「「僕は男のくせに真由美ちゃんに力で勝てなかった負け犬です」って、大きな声で言いなさい」


 ドクンと心臓が脈打つ。

 そんな恥ずかしいことを自分の口から言わなければならないのか。

 一瞬の躊躇。それを見逃す真由美ちゃんではなかった。


「あ、まだそういう態度なんだ」

「い、いや」

「身のほど分からせてあげる」


 真由美ちゃんは立ち上がると、僕のすぐ近くまで移動した。

 そして、仁王立ちのまま、僕のことを見下ろす。

 身長差。

 僕は彼女のことを見上げるしかない。

 体格の違い。

 彼女の体の迫力と、近くにいるだけで分かる体温の高さに、僕はどぎまぎする。

 そんな僕のことを見下ろした真由美ちゃんは、急に僕の手を握りしめた。


「力比べしようね〜」


 おどけたような声。

 真由美ちゃんの大きな手が、僕の手に絡みついてしまった。

 恋人同士の手のつなぎ方のように、僕の指と指の間に、真由美ちゃんの指が絡みついて固定してくる。

 抵抗しようとしても無駄で、彼女のがっしりとした手の感触からは、逃げようと思っても逃げられないことがすぐに分かった。


「じゃ、開始♪」


 ぐうううううッ!


 真由美ちゃんの手が力をもった。

 途端に、僕の手の指の間にがっちりと絡みついた真由美ちゃんの手が、僕の手を侵略してきた。


「ああああああああッ!」


 悲鳴。

 僕の手首はそりかえって、限界まで曲げられてしまっていた。

 激痛。

 そんな僕の悲鳴にはおかまいなしに、真由美ちゃんの手がさらに僕の手を握りしめ、手首を曲げてくる。

 折れてしまう。

 このままじゃ折れちゃう。


「や、やめてええええ」


 僕は懇願して、真由美ちゃんを見上げる。

 はるか頭上。

 そこにはこちらをニンマリとして見下ろす女豹がいた。


「このまま手首折っちゃおうかな〜」


 さらに力がこもった真由美ちゃんの手が、彼女の言葉が本気であることを物語っていた。

 彼女がその気を出せば、できてしまう。

 今も、限界まで手首がそりかえって曲がってしまっている。おそらく、真由美ちゃんはこれでも本気ではない。彼女が本気を出せば、僕の手首なんて簡単にポキンと折ってしまうのだろう。

 僕は恐怖のあまり命乞いをしていた。


「助けてええええッッ。許してくださいいいいッ」


 絶叫。

 負け犬の目で真由美ちゃんを見上げる。

 そんな僕のことをニヤニヤ見下ろして観察してくる真由美ちゃん。

 楽しんでいる。僕が苦しんでいる様子を心底楽しんで鑑賞している。


「や、やめてえええッ。許してええええッ」


 同級生の女の子への懇願。

 命乞い。

 それをしながら、僕はなんとか手首の稼働域を稼ぐために、膝をおり、地面にずるずるとへたり込むようになっていった。

 この激痛から解放されたい。その必死の探求が、僕の体をしてそのように動かせたのだ。


「あははっ、へっぴり腰で情けないね〜。そんなんで解放されるわけないじゃない」


 そんな僕をあざ笑うかのように、真由美ちゃんが上から覆いかぶさるようにして僕に迫る。

 すぐに僕の手首はそりかえって曲がり、さきほどまでよりも骨折の恐怖を感じることになった。

 地面にへたれこむようにして倒れる僕と。それを上から押さえつけるようにして征服してくる真由美ちゃん。

 僕と彼女の関係性が一目で分かる構図だった。


「ねえ良助、これで分かったでしょ」


 真由美ちゃんが僕の手首を折り曲げながら言った。


「私の気分次第で、お前の手首はぽっきり折れちゃう。それだけじゃない。私がその気になれば、良助のことなんて、ボコボコの半殺しにだってできちゃうの」


 真由美ちゃんの壮絶な笑顔。

 その瞳は爛々と輝いていた。


「私とお前の力の差、これでも分からないのかな?」


 ふふっと笑う真由美ちゃん。

 僕は完全に屈服していた。


「なにか言うことは?」

「僕は男のくせに真由美ちゃんに力で勝てなかった負け犬ですううううッ。だからやめてえええッ」

「ふふっ、はい、よろしい」


 満足気に言った真由美ちゃんが僕の手をようやく解放した。

 真由美ちゃんに支えられていた僕はそのまま仰向けにひっくり返ってしまう。後頭部を地面に打ちつけてうめく僕に、真由美ちゃんはさらなる追い打ちをかけてきた。


「負け犬くんの顔、潰しちゃおうね〜」


 おどけながら言って、真由美ちゃんが僕の顔を踏んづけてきた。

 生足。

 彼女の大きな足の裏が、僕の顔をすっぽりと覆い尽くし、そのままぐりぐりと踏み潰してくる。

 僕はあまりのショックに呆然としてしまった。

 顔の圧迫感。鼻と口も彼女の足で封殺され、息すらできない。


「むうウウウッッ」


 耐えられない。

 真由美ちゃんの足を両手でつかみ、なんとかそこから解放されようと抵抗する。全力で真由美ちゃんの足をどかそうとし、体をばたばたさせてなんとか逃げようとする。


「アハっ、なにそれ、抵抗してるつもり?」


 ビクともしなかった。

 僕の抵抗は真由美ちゃんの足一本で完全に無力化されてしまっていた。

 彼女の足を支点にして、僕の顔と体は、地面に縫いつけにされてしまったのだ。まるで、標本にされてしまった虫のように、僕の頭が真由美ちゃんの足によって釘づけになってしまった。。


「ねえ、本当にこのまま潰しちゃおっか?」


 真由美ちゃんが笑顔で言った。

 それと共に、グウウウっとさらに力をこめて、僕の顔を潰す。

 僕は悲鳴さえ彼女の足であげることができず、負け犬の媚びた目で真由美ちゃんのことを見上げるしかなかった。

 片足で仁王立ちで立ち、僕の顔を踏みつぶす女の子が、滑稽にも地面で悶絶する男を優越して見下ろしてくる。


「それとも、このまま足の裏で鼻も口も押さえつけたまま、ゆっくり窒息させちゃおうかな」


 僕の顔にある真由美ちゃんの足の親指と人差し指が、僕の鼻を挟み込んでぎゅっと閉じられる。

 僕の口には真由美ちゃんの足の土踏まずの部分がすっぽりと覆って、息ができなくなる。

 ジタバタと暴れ、呻き、頭上を見上げて息を吸わせてほしいと懇願するしかなかった。


「これで分かったよね」


 真由美ちゃんが言った。

 僕の顔を踏みしめながら。

 ニンマリとした笑みで、こちらを見下ろして。


「私とお前の格の違いってやつをさ。お前じゃ私には勝てない。私がその気になれば、お前のことなんて精神が発狂するまで虐め抜くことだってできるのよ」


 真由美ちゃんがふふっと笑った。

 僕はビクビクと震え、そんな彼女のことを見上げることしかできなかった。

 僕の心は完全に折れてしまって、真由美ちゃんに対して屈服してしまった。

 そんな僕の様子を満足気に見下ろした真由美ちゃんは、頃合いとばかりに言った。


「足、舐めなさい」


 有無を言わせない冷酷な声だった。


「聞こえなかったの? このまま舌でぺろぺろ、私の足裏を舐めろって言ったの。早くしなさい」


 ぐぐぐっと、真由美ちゃんの足がさらに力をもった。

 僕の頭部からはミシミシという音がなり出し、さきほどから息なんてまるでできていなかった。

 痛みと恐怖で発狂しそうになる。

 視界がブラックアウトしていく。

 そんな狭まってきた視界の中、頭上にはこちらを見下ろす絶対的な真由美ちゃんが見えた。

 僕は……。



1 足を舐める(奴隷ルート)

2 無言で反抗した(恋人ルート)