無言で逆らった。

 息は苦しくなり、顔は激痛で潰れそうだった。

 僕の目からは涙が出て、それが真由美ちゃんの足裏をぬらしていた。

 それでも、僕は彼女の足を舐めることだけはしなかった。

 僕はいやいやをするように顔を左右に動かそうとして、しかしそれは真由美ちゃんの足に縫いつけにされていることによって叶わない。

 激痛と窒息に耐えながら、僕は必死に、真由美ちゃんを見上げて、許しを懇願するしかなかった。


「へ〜、けっこう根性あるじゃん」


 真由美ちゃんの感心するような声。

 それが聞こえたかと思うと、真由美ちゃんの足が僕の顔からどいた。

 久しぶりの開放感と空気に、僕は貪るようにして息を吸った。

 豚がブヒブヒ言うように、地面に仰向けのまま倒れこみ酸素を貪る僕。

 そんな僕のことを真由美ちゃんは仁王立ちのまま見下ろしていた。

 手は腰にやり、その高身長のはるか高見から、彼女は僕のことを観察しているのだった。

 それはまるで値踏みするような視線だった。

 見る者と見られる者との絶対的な差を感じさせる、圧倒的強者のまなざしだった。


「こんなにされたのに、逆らうなんて、私の予想がはずれたかな」


 真由美ちゃんが僕のことを見下ろしながら続けた。


「てっきり、すぐに舐めて、私に媚びへつらうものだとばっかり思ってたんだけどね。ほかの男どもと同じように、良助も情けない奴隷だと思っていたんだけど・・・・・」


 どうやら違うみたい。

 真由美ちゃんがそう呟いた。

 どことなく嬉しそうにすら思える彼女の姿がそこにはあった。


「あーあ、計画を変更しなくちゃね。まあ、ジムで普通に筋トレしてもらうだけでも、他の女子会員の自信になっていいのかな」


 ぶつぶつと何か考えをめぐらしている真由美ちゃん。

 僕は何がなんだか分からないまま、そんな彼女のことを酸欠のくらくらする頭の中で見上げるしかなかった。


「ほら、いつまで地面に倒れてるのよ。立ちなさい」


 真由美ちゃんが、いきなり僕の手を掴んで、地面から引き起こした。

 僕は自分の力では立てないくらいに消耗してしまっていて、立ち上がった足はさきほどからガクガクと震えたままだった。

 真由美ちゃんの片腕に宙づりにされてしまっている格好。

 そんな情けない状況下で、真由美ちゃんは僕のことを解放することはなく、逆に僕の顔の間近でもって、まじまじと僕のことを見つめてくるのだった。

 その迫力。

 絶対優位な、僕よりも人間として格の高い彼女を前にして、僕はあわあわと目を泳がし、真由美ちゃんの視線から逃れようとする。

 しかし、


「私の目を見ろ」

「は、はいいいいい」


 命令され、服従する。

 僕は恐れながらも、言われたとおりにした。

 彼女の大きな瞳を、びくびくしながら見返す。

 その意思の強さを思わせる力強い瞳。

 絶対強者の視線が僕のことを補足し、蹂躙する。

 生きた心地のしない数秒間の沈黙。

 それを破ったのは真由美ちゃんだった。


「ねえ、良助、あんた、私のこと好きでしょ」

「え、えええ!?」

「分かるから。小学校のときからあんたが私のこと好きだってことなんて。合コンのときも露骨だったもんね」


 にやにやしながら真由美ちゃんが言う。

 逃げたくても僕の腕は真由美ちゃんの手に握られて、拘束されてしまっている。

 逃げたくても逃げられない。

 僕は真由美ちゃんの殺人的な視線に耐えるしかなかった。


「ねえ、何か言うことあるんじゃないの?」

「え?」

「別にあんたの気持ちを知ってても、それはあんたの口から聞かないと意味ないって、それくらい童貞の良助でも分かるでしょ?」


 童貞という言葉にも反応できず、僕は真由美ちゃんの言葉の意味を考えていた。

 いや、考えるまでもなく分かっていた。

 それは告白しろと、そういうことなんだろうか。

 この状況で。

 女の子に腕相撲で負け、裸にされて、顔面を踏みつぶされた後で。

 そんな状況で、僕はさらなる惨めな負け戦をしないといけないのか。


「ほら、どうなの? ん?」


 さらなる追い打ち。

 真由美ちゃんの腕がぎゅっと力をもって、彼女に捕まれた腕に激痛が走る。

 さらに近づいてきた真由美ちゃんの体の迫力に、僕は完全にびびってしまった。


「真由美ちゃんのことが好きです! 僕と付き合ってください!」


 ストレートな告白。

 工夫もなく言うことしかできなかった僕を真由美ちゃんは笑わなかった。

 返事は言葉ではなかった。


 ぶっちゅううううう!!


「ンッッ!!!?? ウウウンンンアア」


 口づけ。

 真由美ちゃんが僕のことを抱きしめると、そのまま彼女の大きな口が開き、僕の口が貪り喰われた。

 密着したことで彼女の大きな胸が僕の矮小な胸板でぐんにゃりと歪んで侵略され、

 その肉厚な唇が僕の口を喰らって、さらには、

 長くて強い、それ自体生き物みたいな大きな舌が、僕の口の中に入ってきて、口内をめちゃくちゃにされていく・・・・・


 ジュバアッ!! じゅるじゅるう!! ジュパ!


「ああん・・・・ひい・・・・ンンンッッ!!」


 喘ぎ声をあげているのは僕だ。

 僕は真由美ちゃんの過激な口づけを前にして動けなくなり、一方的に蹂躙され続けていった。

 真由美ちゃんから抱きしられて拘束され、身長差から上から踏み潰すされるように、上から口づけが続く。

 その過激さと、うまさ。

 真由美ちゃんの舌が僕の口内を犯すたびに、僕は女の子みたいな喘ぎ声をあげ、快感から体が麻痺したようになってしまった。

 目がトロンとして、下半身が溶ける。

 まるで真由美ちゃんに下半身まで食べられてしまっているかのような、そんな印象を覚えるほどに、そのディープキスは僕から人間としての尊厳を奪っていった。


(しゅごすぎるううう!! 溶けちゃウウウ!!)


 頭は真っ白になり、快感に身悶える。

 さきほどから体には全く力が入らず、ビクビクと真由美ちゃんの口づけに震えるだけ。

 自分一人では立つこともできず、真由美ちゃんの片腕が僕の胴体をぎゅっと抱きしめて、地面にずり落ちないようにされていた。

 あまりの過激さ、力強いディープキスに、僕は満足に息を吸うことすらできない。

 酸欠。

 目の前が少しづつ暗くなっていく。

 ビクビクと体が震える。

 そのまま気絶するという寸前で、ようやく解放された。


「ふふっ、今日はこれくらいにしておいてあげる」


 真由美ちゃんが言って、僕の胴体を抱きしめて拘束していた片腕を解いた。

 骨抜きにされ、足腰がたたなくなってしまっていた僕は、そのまま地面に倒れ込む。

 どさっと、地面に落ちた僕は、陸にあがった魚のようにビクンビクンと痙攣してしまっていた。

 真由美ちゃんの口づけによる快感で、全身が支配されている。

 こうして解放されたというのに、さきほどまでの余韻がいつまでも続くようだった。


「ふふっ、すごいでしょ、わたしのキス」


 真由美ちゃんが勝ち誇ったように言った。

 またしても彼女は手を腰にやって仁王立ちになり、僕のことを見下ろしていた。


「みんな骨抜きになっちゃうのよね。わたしとしては精一杯手加減してるつもりなんだけど・・・・・・良助も一発で墜ちちゃったみたいだね」


 ふふっと、にんまりとした笑顔を浮かべる真由美ちゃんだった。


「ま、これから私がちゃんと仕込んであげるわよ。徹底的にね」


 それが僕と真由美ちゃんとの関係が変わった日の全てだった。

 僕は告白をして、真由美ちゃんはディープキスをした。

 よく分からないが、僕は真由美ちゃんと付き合うことができるらしい。

 それだけで僕は幸せな気分でいっぱいで、天にものぼる気持ちだった。


(続く)