入学式当日。
俺とカナタは学校の校門前に並んでいた。
周囲には同じ制服姿の男女がたくさんいた。
母さんや父さんも一緒だった。オシャレをした母さんの美しさと、終始ビクビクしている父さんの情けなさが対比され、強調されている。しかし、俺は母さんよりも隣のカナタに圧倒されていた。
(で、でけえ!)
妹の巨大さに驚きたじろぐ。
ブレザー制服姿のカナタは大人っぽかった。
身長が俺よりもはるかに高く、カナタの顔を見るためには首が痛くなるほど見上げなければならない。
母さん譲りの彫りの深い顔立ちはますます成長しているので、ギャルメイクが似合っていた。
はやくも制服を着崩して胸元を露出させ、その爆乳をさらしている。
スカートの丈も極限まで短くなっているので、パンツが見えそうで見えないギリギリの境界線をさまよっていた。肌色がたっぷりで目のやりどころに困ってしまう。鍛えあげられた健康的な肉体とあいまって、兄と妹のどちらのほうが年上なのか分からなくなってしまいそうだった。
「ほら、カナタと良介の二人だけの写真も撮ってあげるわ」
母さんが言ってカメラを構える。
ポーズをとろうとした俺の頭の上にカナタがのしかかってきた。
「いえーい」
「う」
カナタの右肘が俺の脳天に乗せられ体重がかけられる。
もたれかかってくる高身長の女体が俺の首を軋ませた。爆乳がぐんにゃりと俺の頬に押しつけられてきて、その柔らかさと甘い匂いで崩れ落ちそうになった。
「ちょ、カナタ、何してるんだおまえ」
「え~、だってちょうどいいとこに肘置きがあるんだもん」
「ふざけんなよ。俺の頭を肘掛けにするな」
「にーにがチビなのがいけないんじゃん。女の子様に使ってもらえるんだから有り難く思いなさいよね」
何を訳の分からないことを言っているんだ。
そう思っている間にカメラのフラッシュがたかれて写真が撮られてしまった。妹に肘置き代わりに使われた情けない写真が残されてしまったのだ。母さんが「んふっ」と笑って言った。
「カナタ、まだ入学式が始まってないんだから、その辺にしておきなさい」
「えー、だってもうすぐじゃん。今のうちに現実に慣らしておかなきゃ、困るのはにーにじゃない?」
「それでも入学式までは秘密にしておかなきゃダメでしょ? それに、そのほうが色々と楽しめるわよ?」
母さんとカナタが何か訳の分からない会話をしている。
その間も父さんはビクビクと怯えて、哀れみの視線を俺に向けてきていた。
「それもそっかー、あー、楽しみだなー」
幼い子供に戻ったみたいに素直になるカナタ。
その視線だけがニンマリと妖艶に笑い、俺のことを見下ろしていた。その瞳は猫みたいに弓なりになっている。まるで獲物を前にした肉食動物みたいな笑顔だ。俺は訳も分からず途方にくれるしかなかった。
*
母さんたちと別れて体育館に入る。
パイプ椅子が並べられていて、指定された場所に座った。
新入生たちが男女に分かれて並んでいる。
俺の隣には顔をあわせたくない奴が座っていた。
「よお良介」
「・・・・・・・朝井か」
体格が良くていつも勝ち気なお調子者。
カナタやヒナタちゃんをいじめていた不良でもある。
信じられないことに朝井は髪を茶髪にして制服を着崩していた。パイプ椅子にふんぞりかえって座っている姿も、いかにも素行不良の中学生といった感じだ。
「おまえ、入学式でそんな不良っぽい格好して、何考えてるんだ?」
「別にいいだろコレくらい」
「いい訳ないだろ。先輩だっているのに、目をつけられたらどうするんだ」
「はっ、関係ないね。年上だろうが全員ぶっとばしてやるよ。今日から俺がこの学校の顔だ」
傲岸不遜とはまさにこのことだ。
俺は呆れながら朝井の隣に座った。
周囲を見渡すと、通路を挟んだ反対側の席に陣取った女子たちから視線を感じた。
俺たち男子よりも年下でありながら、全員が立派な体格をした長身女性たち。
そんな女子たちが「くすくす」笑いながら朝井を見つめている。
その視線はカナタと同じニンマリとしたものだった。俺は怪訝に思いながらも、それ以上は朝井の相手をしたくなかったので、ただ黙って入学式が始まるのを待った。そして、俺たち男子の運命を変える儀式が始まった。
*
入学式は最初なにごともなく進んだ。
どういうわけか教師たちのほとんどは女性教師たちで、校長や教頭も女性だった。その全員が若々しい見た目をしていた。長身でスタイル抜群の大人の女性たち。それがなぜか印象に残った。
「女子生徒のみなさんには、自分の能力をいかんなく発揮し、活躍することを望みます。男子生徒のみなさんには、自分たちの能力の限界を理解し、女子生徒の指導を服さなければならないという現実を、できる限りはやく受け入れることを期待しています」
校長や来賓のあいさつが続く。
大人の女性たちの言葉はよく分からなかった。
俺だけでなく男子全員がザワザワとしている。それとは対照的に女子たちはみんな「くすくす」と笑って、俺たちのほうに視線を送ってくる。その意味を俺たちはすぐに知ることになった。
「つづいて生徒会長によるあいさつです」
司会の女性に促されて壇上に女子生徒があがる。
3年生の上級生。かなりの長身でスタイル抜群な生徒会長がマイクを握り、余裕たっぷりにほほえんだ。大人っぽい雰囲気。けれどその顔には見覚えがあった。
「な、奈津実ちゃん?」
間違いない。
壇上にあがった生徒会長は奈津実ちゃんだった。
同い年で、2年前に一足先に卒業していった元クラスメイト。昔からクラス委員長をやっていた真面目な女の子が、成長した大人っぽい姿で立っている。
「お、おい朝井」
「ああ、委員長だなアレ」
「おお。奈津実ちゃんが生徒会長なんだな」
「あの泣き虫委員長がな・・・・・・ひひっ、こりゃあ楽勝そうだぜ」
学校の顔になってやろうと思っている朝井がニヤリと笑う。
無視して壇上を見上げると、奈津実ちゃんが、
「新入生のみなさん、入学おめでとうございます」
落ち着いた声だった。
同級生だった女の子が上級生の立派な生徒会長になってあいさつをしている。それがなんだか、自分たちとの立場の違いみたいなものを感じさせるようで、圧倒されてしまった。
「わたしも2年前、この学校に入学しました」
にっこりと優しそうに笑いながら奈津実ちゃんが続ける。
「入学前から、男女の違い、能力の練習、そして女性にだけ課された義務を学んでいたものの、わたしにソレができるのか、とても不安だったことを昨日のことのように覚えています」
あいさつが続く。
それにしても大きい。
奈津実ちゃんは身長だけでなく・・・・・・おっぱいも大きくなっていた。卒業前にも成長していたけれど、今では段違いだ。とてもではないけれど、同い年には見えない。
「今日は特別に学校生活の日常を撮影した動画を準備しました」
にっこりと奈津実ちゃんが笑う。
「女子生徒にとっては日常の義務を・・・・・・男子生徒にとっては残酷な現実を・・・・・・・分かりやすいように動画にしましたので、ご覧ください」
そこで奈津実ちゃんが俺たちのほうを見下ろした。
男子生徒たちのことを「じっ♡」と見つめてくる。
なぜか俺と視線があった気がした。年上の大人の女性みたいな元クラスメイトが、宣告する。
「男子生徒のみなさんは、気を確かにもってくださいね」
*
体育館が暗くなった。
壇上にスクリーンがおりてきて映像が映し出される。
なんの変哲もない教室の風景だ。
授業中らしく教師が黒板にむかって何やら書き込みをしている。長身の女子生徒たちが勢ぞろいしているのは圧巻だった。けれども不思議だった。男子生徒たちが座っていないのだ。女子クラスなのだろうか。そんな疑問は次の瞬間に電撃となって解決された。
「い、椅子が・・・・・・人間?」
長身の女子生徒たちが座っているモノ。
椅子ではない。
信じられなくて・・・・・信じたくなくて、女子生徒が座っている存在を意識からはずしていたのだ。けれどもよく見れば椅子は男子生徒だった。同じ制服を来た男子たちが、クラスメイトの女子生徒たちの尻に敷かれて、椅子になっていた。
「うううッ」
男子生徒たちが呻いている。
それも当然だろう。
男子と女子とでは体格差がぜんぜん違うのだ。
四つん這いになった男子生徒の矮小な背中にドシンと腰かけている巨尻様。丈の短いスカートなので、下着で直に背中に座っている女の子もいる。その尻肉のボリュームは、男子生徒の小さな背中ではおさまらずにあふれかえっていた。それだけの体格差が女子と男子の間にはあるのだ。
「これはみなさんの一学年上のクラスの映像になります」
その声にハっとする。
奈津実ちゃんが壇上で映像の解説を始めた。
「男子のほうが女子よりも2歳年上なのですが、ご覧のとおりの体格差です。学校に入学してからも女子の身長は伸び続けます。1年生の女子の平均身長は176センチ。2年生の平均身長は182センチ。3年生の平均身長は186センチです」
その身長の数値に驚き、スクリーンに映された巨大な女子たちの映像に圧倒される。
「それに対して、男子の平均身長は1年生で145センチ、2年生で149センチ、3年生で155センチとなっているのでその差は歴然です。男子のみなさんは、けっして女子よりも大きくなれません。その体格差だけを見ても、劣っていることが分かると思います」
くすくすと笑い声が体育館を満たす。
同級生となる2歳年下の女子たちが、俺たち男子のことを見つめて笑っていた。
「女子は男子を調教する義務があります。その一つが毎日のように求めることになる忠誠の儀式なのですが、このクラスではうまくできない男子がいました。もちろん男子は連帯責任なので、こうして罰として、授業中に人間椅子になっているというわけです。ふふっ、2歳年下の同級生の大きなお尻の下敷きになって、なんとか必死に四つん這いで耐えている姿は惨めでかわいらしいですよね。ぷるぷる震えながら、自分よりも身長が高くて、体重も重い女子生徒を支えようとがんばっています」
奈津実ちゃんの言葉どおりだった。
男子たちはそのチビな体に力をこめて人間椅子として耐えている。苦悶の表情を浮かべ、ぷるぷる震えながらもがんばっていた。なぜそんなにも必死なのだろうか。その答えはすぐに知れることになる。
「あ、倒れてしまいましたね」
奈津実ちゃんがスクリーンを見ながら言う。
そこでは一人の男子がついに力尽きていた。巨大なお尻の下敷きになって床に押し潰されてしまっている。その瞬間の『ぐええええッ』という断末魔が体育館中に響きわたって、女子たちの爆笑を誘った。
「罰である人間椅子もできなかった男子には、さらにきついお仕置きをしなければなりません。ほら、始まりますよ?」
スクリーンの中でお尻で男子を潰した女子が立ち上がる。
床に倒れて『ゆるじで・・・・ゆるじで・・・・』と命乞いを必死にしている男子の胸ぐらをつかんで、吊してしまう。仁王立ちになった女子生徒がその巨体をいかんなく発揮して、男子のことを宙づりにしてしまったのだ。身長差から男子の足は床につかずにブラブラと揺れるだけ。そんな男子の頬めがけて女子によるビンタが炸裂した。
バッチイイイイインンッ!
思わず顔をそむけてしまうほどのビンタ音。
それを受けた男子は首だけがねじきれそうになるほど吹き飛び―――しかし胸ぐらをつかまれているので宙づり状態が継続。すぐに返す手の甲で反対側の頬をビンタされ、それが連続して続けられていく。
ばっちいいいいいいんッ!
バッチイインンンンンッ!
ばっちいいいいいいいッ!
バッチッチイイインンッ!
往復ビンタだ。
男子の首が左右にねじきれそうになっていく。
ビンタとビンタの合間に「ゆるじでッ!」と命乞いの声があがりそうになるのだが、それすらもビンタによって黙らされてしまう。眉を八の字にして、涙をボロボロ流しながらビンタされていく男子の頬が赤黒く変色していった。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
凄惨なビンタ地獄を繰り出している女子は、無表情のまま淡々とした表情を崩さなかった。
豪快な張り手。
それを事務的に繰り返していく。
まだあどけなさを残す幼い顔立ちの女子生徒が、日常業務をこなす冷たい職員みたいに、同級生の男子にビンタをお見舞いしていく。
『ゆるじでッ!・・・・ゆるじでえッ!』
男子が泣き叫び、女子がビンタを続ける。
胸ぐらを片手でつかんで宙づりにして、淡々と続けられる往復ビンタ。絶叫とビンタ音が教室に響くのに、女性教師は授業を続けていく。これが日常なのだ。ほかの女子生徒たちは同級生の年上男子を人間椅子にしたまま授業に集中していた。
『ぐえええええッ!』
『ううううううッ!』
『ああああああッ!』
そして男子が次から次へと崩れ落ち巨尻の下敷きになっていく。
体格差が違いすぎるので、貧弱な男子が巨体の女子生徒を支えることなんて不可能なのだろう。限界をむかえた男子が何人も倒れていき、お仕置きのビンタ地獄が始まってしまった。
『ひっぎいいいいいッ!』
『ひゃめでええええッ!』
『たじゅげでえええッ!』
泣き叫びながらビンタをされて脳震盪でクラクラしている男子たち。
一人目の男子と同様に、胸ぐらをつかまれ、宙づりにされて、往復ビンタを受けては悲鳴をあげていく。
巨体の女子生徒と、貧弱な男子生徒の対比が強調される。
女子生徒は淡々と事務的にビンタをする子が大半だったが、中にはニンマリ笑いながら楽しそうにビンタをする女子もいた。楽しんでいるのだ。ビンタの構えだけをして男子を怯えさせて『ひいッ! ひいッ!』とさんざんに悲鳴をあげさせてから、バッチイイインッとビンタをしてやっている。教室中がビンタと悲鳴で覆い尽くされ、男子生徒に腰かけた女子生徒たちが『くすくす』と笑っていた。
「かわいそうですね。けっきょく男子たちは何度も崩れ落ちて、罰として繰り返しビンタされていきました。授業が終わる頃には顔を真っ赤に腫れあがらせて、息も絶え絶えになってしまったんです。ほら、このように」
画面が切り替わる。
授業が終わったのだろう。
壇上には全裸に剥かれた男子たちが直立不動で立たされていた。その顔はパンパンに腫れあがっている。涙をボロボロ流し『うううッ』と嗚咽をもらしている男子生徒たち。そんな獲物を見下ろしているのは、制服姿の女子生徒たちだった。
『反省した?』
腕組みした女子生徒が男子たちに声をかけている。
『忠誠も満足にできないと、こうなるのよ』
『うううッ』
『次も失敗したらお仕置きはこんなもんじゃすまないからね』
『あああッ』
『わかったらほら【忠誠】しなさい』
女子生徒たちが仁王立ちのまま足を前に出す。
それだけで男子たちが勢いよく女子生徒たちの足下で四つん這いになった。2歳年下の同級生の足下に膝まづくことにためらいがない。男子生徒たちは全員そろって、
『『『『『失礼しますッ!』』』』
声をあわせて絶叫し、口づけした。
仁王立ちになった女子生徒の上履きにキスをする。
誠心誠意―――心の底から屈服していることが分かる動作。それを女子生徒たちが淡々と見下ろし、ニンマリ笑い、鑑賞していった。
『ん。やればできるじゃない』
女子生徒が言う。
『それじゃあ、【掃除】もしてもらおうかしら』
『くううんんッ!』
『ほら、やれ』
上履きを浮かす。
靴裏が男子生徒の顔面めがけて突きつけられる。
ためらいもなく男子生徒が上履きの裏に顔面を押しつけ、舐め始めた。
『じゅぱあああッ! じゅるじゅるッ!』
唾液音を響かせながら舐める。
ぺろぺろと、舌を大きく出したままで、一心不乱に舐めていく。犬でもここまで舐めないだろうというほど必死に、男子生徒が女子生徒の靴裏を舐めて掃除していた。
「ふふっ、驚きましたか男子のみなさん」
スクリーン横で笑顔の奈津実ちゃんが言う。
「男子生徒のみなさんには、女の子様への【忠誠】だけではなく、【掃除】もしてもらうことになります。汚れた上履きを舐めてキレイにするんです。授業中だろうが、休み時間中であろうが、命令されればすぐに【掃除】をしなければなりません。少しでも汚れが残っていたら大変ですからね。ほら、このクラスでも男子たちが一生懸命にご奉仕していきます。2歳年下だとか、同級生であるとか、そんなことは関係ないんです。だって、女子と男子では人間としての価値が違いますから、ね?」
スクリーンでは男子たちが女子たちの靴裏を舐めていく。
さんざんに舐めさせられた後、女子たちから「ごっくん」と命令され、すぐにそれに従っている。舌で舐めとった上履きの汚れを飲み込み、口を大きくあけた男子生徒たち。無防備な歯茎や舌がさらされ、それを女子たちから鑑賞されていく。きちんと飲み込めたかどうかを調べるための点検なのだろう。女主人に対して完全屈服している様子が見てとれた。
*
「続いては部活動の紹介をする動画になります」
奈津実ちゃんが言って画面が切り替わる。
放課後なのだろう。
グラウンドで汗を流している男女が映っている。サッカー部の練習風景。長身女性たちが迫力満点でボールを蹴っている。しかしカメラの焦点はサッカー場の外周を映していた。そこでは残酷な男子しごきが行われていた。
『ほら、走れ走れ~』
楽しそうな女子の声が響く。
それに急き立てられるようにして男子たちが外周を走っていた。さんざんに走らされてきたのだろう。男子たちの顔は苦悶に歪み、泣き出しそうになっている。ハアハアと犬のように息を荒げて、フラフラしながら必死に走っていた。
「部活では女子による男子の指導が行われます」
スクリーン横の奈津実ちゃんが映像の説明を始める。
「映像に映っているのはサッカー部のみなさんです。ちょうど男子部員に対する指導が行われていますね。見てのとおり持久力の指導になります。ふふっ、男子のみなさんは信じられないくらいに体力がないですからね、こうして厳しく指導する必要があります」
映像では、50人以上の男子部員が騒々しく走っていく後ろを、5人の女子部員たちが追い立てていた。
男子部員たちは死にそうになっているのに、女子部員たちは軽々とした足取りで、余裕の表情で走っている。女子部員たちは全員が長身で、短パンから伸びる筋肉質な脚の太さがすごかった。さすがはサッカー部という発達した下半身から繰り出される推進力で、女子部員たちが男子部員を『走れ走れ-』と追い立てている。
「女子部員のみなさんは入部したばかりの1年生です。それに対して男子部員のみなさんは上級生である3年生になります。年齢でいうと4歳も年下になりますが、そんなことは関係ありません。ふふっ、こう説明されなければ、どちらが年上なのか分からないでしょ?」
奈津実ちゃんの言葉どおりだった。
体格差というものが明らかに違う。
180センチに迫る長身女子部員と、160センチ前後でしかない男子部員たちの体つきは大人と子供のソレだった。身長だけではなく体の厚みでも完敗してしまっている。1年生の女子部員が3年生の男子部員を体格で圧倒していた。ムチムチの長い脚で走る女子部員たちが、短足で一生懸命走る男子部員たちを追いかけていく。
「体格だけでなく体力でも格差は明らかです。男子たちも一生懸命走っているのですが、4歳年下の女子たちの持久力に比べたらミジンコみたいなものでしょうね。そんな劣った男子には厳しい指導が必要になります。ほら、始まりましたよ?」
映像の中でバッシイインッと音が響く。
外周を走る集団から遅れた男子の尻を女子部員が蹴ったのだ。すぐに男子が『ひいいいいッ』と悲鳴をあげて脱兎のごとく走り出した。男子の集団にも気合いが入ったのかそのスピードがあがっていく。しかし、
『遅いですね』
『ノロマだね、こいつら』
『ほらほらー、1年生の女子に負けていいんでちゅかー?』
『とっとと走れ』
『キャハッ、短い足一生懸命動かしてるの受けるんですけど』
女子部員たちの辛辣な声が響いていく。
それを受けて男子たちが全力で走り出すのだが、女子部員たちは余裕の表情のまま男子たちに追いついてしまった。そして集団の最後尾をヒイヒイ言いながら走っていく男子のケツを容赦なく蹴り飛ばす。
『ひいいいいいいいいッ』
長身女性の筋肉質な脚で蹴られたのだからたまらない。
蹴られた男子が脱兎のごとく駆けていく。それを女子部員たちが追って代わる代わる蹴っていく。まるでお遊びだった。逃げる獲物を追って遊ぶ女豹たち。何十人もの男子たちがケツを蹴られては全力疾走して、すぐに追いつかれて、またケツを蹴られていく。限界はすぐにおとずれてしまった。
「かひゅう―――カハアッ!―――おえええッ!」
体力の限界をむかえた男子が一人、それ以上走れなくなってグラウンドに崩れ落ちた。
四つん這いにもなれずに地面に倒れこみ、体を丸めてなんとか呼吸をしている。本当の限界の限界まで走ったのだ。顔は真っ赤になり、血管が浮き出ていた。それなのに残酷な女子部員たちは容赦がなかった。
『なに倒れてるんですか、センパイ』
どっすううううんんッ!
黒髪が印象的な少女が男子部員を蹴り飛ばした。男子は悲鳴をあげるのだが、立ち上がることもできない。『ふう』とため息をついた黒髪の長身少女が、ほかの女子部員にむかって『先に行って』と伝える。お仕置きの時間が始まろうとしていた。
『センパイ、恥ずかしくないんですか?』
ドッスウンンンンッ!
二人きりになった瞬間に少女が男子を踏み潰す。
体を丸めて倒れ、息も絶え絶えになっている先輩男子のことをスパイクの歯で踏みにじっていく。仁王立ちになった女子部員の長い脚が強調される。短パンから伸びるムチムチで筋肉質な脚で踏み潰された男子は『おゆるじくださいいい月村様ああんッ♡』とかすれた声で命乞いをするだけだった。
『こんなに体力がなくて恥ずかしくないんですか?』
ぐりぐりぐりッ!
『今までどんな練習をしてきたんです?』
ぐじゃああッ! バギイイッ!
『3年生のくせに、入部したばかりの1年生に負けて悔しくないんですか?』
バッギイッ! ぼっごおおッ!
『ほら早く立って全力で走ってください。ほら、ほらほら、ほらほらほら』
踏まれる。
まるで虫けらみたいだ。
男子はプルプル震えながらなんとか上体だけでも起こそうとするのだが、そこを容赦なく蹴り飛ばされる。男子の体は再び土まみれになって汚れていく。仁王立ちになった長身女性がチビ男を蹴り続ける。それはまるで人間の体をサッカーボールにして遊んでいるかのようだった。
『・・・・・・・もういいです』
諦めた声が響く。
女子部員が無表情のまま男子の髪の毛をつかむと、男の頭を跨いで仁王立ちとなった。
そのムチムチの股の間に男子の頭部が挟まれる。四つん這いになった男子の首から上がすっぽりと女子部員の太ももに挟まれ、埋もれてしまっている。男子の後頭部には女子部員の秘所が押しつけられているのだが、男子にはそんなことを感じる余裕はないみたいだった。
『ひいいいいッ! 許してください月村様ああああッ!」
半狂乱になって命乞いが始まる。
年下の女子部員を月村様と呼び、ガチガチと震えた男子部員。ムチムチした太ももに頭部をがっちりと拘束されてしまっている。太ももの肉が両頬に食い込んでしまっているのだが、皮下脂肪の柔らかさを堪能する余裕はやはりないみたいだ。
『おしおき開始です』
ぎゅうううううううッ!
月村様と呼ばれた女子部員が表情一つ変えずに締めつけを開始した。
仁王立ちのまま男子部員の頭部を太ももで挟みこみ、潰していく。
途端に絶叫があがるのだがそれすらも女子部員の圧倒的な太ももが押し潰してしまっていた。ボゴオッと皮下脂肪の下から隆起してきた凶悪筋肉が女子部員の太ももの体積をさらに増大させる。男の胴体の2倍ほどはあるような太さになった太ももで締めつけられたらおしまいだ。男の頭部はムチムチ太ももの肉に埋もれ、その顔面が醜く変形し、かろうじて外部に露出するだけになっている。捕食。その長くてムチムチした太ももが男を捕食してしまっていた。
『このままセンパイの頭、ぐじゃあって潰すこともできます』
女子部員があくまでも淡々と言う。
『センパイなら分かりますよね? この前もセンパイたちが片付け忘れたサッカーボール、この太ももで潰してぺちゃんこにしてあげましたもんね。それと同じようにセンパイの頭もぺちゃんこにしてあげましょうか?』
ぎゅッ!
ぎゅッ!
強弱をつけて男子部員の頭部を潰し始める。
太ももに捕食された男子部員は涙をボロボロ流しながら、悲鳴をあげるしかないようだった。
年下の下級生の股の間で拘束されて、四つん這いの格好で鳴いている。そんな男とは対照的に女子部員は一人仁王立ちとなって、両手を腰にやって、余裕の表情で男子部員の頭部を挟み潰しているのだ。どちらのほうが上なのか一目瞭然の光景だった。
『反省していますか、センパイ?』
『くううんッ♡ くううんんッ♡』
『媚び売りだけは上手ですが、本当に反省してるんですか?』
『くうううッ♡ くううんんッ♡』
『ちゃんと走れる?』
『くううううんッ♡』
『よろしい。では全力疾走しなさい』
お許しが出る。
獲物を捕食していたムチムチ太ももが開脚して、男子部員が解放された。ぺちゃんこにされそうになっていた頭部を気にかけるヒマなんてない。男子部員は四つん這いの体勢から勢いよく立ち上がると、そのまま全力で走り始めた。
『ひいいッ! あひいいッ! うえええッ!』
両手両足をバタつかせるように醜く走っていく。
目を血走らせて、涙をボロボロ流し、己の限界をこえて全力疾走。
それなのに絶対に逃げられなかった。
『ほら、もっとはやく走れ!』
バシイイインッ!
月村様と呼ばれた女子部員の叱責と蹴りが飛ぶ。
ケツを蹴られた男子部員は「ひいいいッ♡」と叫んでさらに走っていった。
外周には落ちこぼれた男子を折檻していく女子部員たちがチラホラと見えてくる。その合間を縫って男子部員が走り、女子部員が追っていく。地獄絵図のような光景。男子が女子から厳しい指導を受けていく映像がこれでもかと迫ってきて、圧倒された。
*
「つづいては野球部の映像です」
奈津実ちゃんが言う。
映像が再び切り替わる。
野球場が映し出されて、そこでは試合が行われようとしていた。
真新しいユニフォーム姿の男女が並んでいる。これから男子チームと女子チームにわかれて試合が行われるみたいだった。向かいあっている男女の体格差がすごい。長身女性たちが貧弱なチビ男子たちを見下ろしている。上級生の女子部員と下級生の男子部員の試合なのだろうか。そんな予想ははずれることになる。
「これから始まるのは、1年生女子部員と3年生男子部員の試合になります。女子部員たちは入部したばかりで、野球の初心者もいるみたいです。それに対して男子部員たちは、3年間、みっちりと厳しい練習に明け暮れてきました。同級生女の子様や先輩女の子様たちから指導を受けてめきめき実力をつけてきたんです」
奈津実ちゃんの説明もうなずける。
体格差は確かに違う。
しかし男子たちの顔に怯えはなく、どこか闘志に満ちあふれているように見えた。この試合に絶対勝つんだという気合いがあふれている。
「男子たちは1年生女子に勝てば公式戦のベンチ入りが約束されているんです。これまで一度も背番号をもらえたことがない男子たちの最後のチャンスがこの試合なんですね。この日だけは男子部員たちにも新しい公式戦用ユニフォームが渡されています。一桁大の背番号なんて男子たちにとっては夢みたいでしょうね」
言葉どおり男子たちの顔には誇りがあった。
夢にまで見たユニフォームを着てこれから戦えるという誇りだ。相手は1年生の女子部員。しかも野球経験がない者もいる。それに対して自分たちは3年間厳しい練習に耐えてきた。まさか素人がいる1年生女子チームに負けることはないだろう―――そんな考えは試合開始直後に粉砕された。
『あはっ、おそッ(笑)』
カキーーーンッ!
甲高い金属音が響き、打球が場外に消えていく。
特大の場外ホームランだ。
男子投手が投げた全力のストレートを、女子部員が軽々と打ち返してしまった。ニヤニヤ笑いながら、まったく真剣そうな表情を浮かべることなく、トスバッティングでもしているみたいに軽々とホームランを打ってしまったのだ。
『うううッ』
男子投手はうなだれてスコアボードを見つめる。
1回表に刻まれた13点という数字が絶望的に目に飛び込んでくるのだろう。打者は一巡してなおも女子チームの攻撃が続いていく。この間、1アウトもとることができなかった。投手だけでなく野手たちも、お通夜みたいにシーンとなって絶望していた。
『ほんとザコだよねー、おまえらって』
場外ホームランを打った1年生が、ダイヤモンドを一周してホームベース上で仁王立ちになりながら言う。
ツインテールが似合うナマイキそうな女子部員。
うなだれた捕手を高身長から見下ろして、さらにはグラウンドで守備につく他の先輩男子たちも見下ろしながら、少女がさらに続けた。
『わたし、ついこの前に野球をやり始めた素人だよ? おまえらは3年間も毎日毎日野球の練習してきたんだよね? それなのに相手になってないじゃん。あんなおっそいストレート、目をつぶってても打てるよ』
女子部員たちがクスクス笑う。
長身女性たちが、グラウンドでうなだれている男子たちを鑑賞して楽しんでいる。もはや野球のゲームではない。これは女子部員たちによる男子虐めゲームだった。
『これじゃあいつまでたっても終わらないからさー、ハンデあげようよ。みんなもいいでしょ?』
さらなる遊びを思いついたのか、ツインテールの女子部員がベンチにむかって言う。さんせーっという言葉が響く中、ツインテールの女子部員がニンマリと笑って、
『打つ場所を事前に申告して、そのとおりに打てなかったらアウトでいいよ。あ、もちろん、打球を捕球してアウトにできたらアウトだよ? まあ、おまえらみたいなヘタクソにわたしらの打球を捕ることなんて不可能だろうけどね』
その言葉どおりになった。
女子部員がバッターボックスに入り、『次、サード』と宣告する。投手が投げ、簡単に女子部員が打ち返して、強烈なライナーがサードを襲った。
『ひ、ひいッ!』
ボッッゴオオオオッ!
逃げようとしたサードの腹にボールがめりこんだ。
断末魔の悲鳴をあげて男子部員が崩れこむ。転々とボールがグラウンドを転がる中を、打った女子部員は走ることもせずゆっくりと歩いて1塁に到達した。
『ぐえええええええッ!』
腹にボールが直撃したサードの男子部員は立ち上がれない。
石ころよりも固い硬球が強烈なライナーとなって直撃したのだ。吐き気と共に胃の中身が逆流しそうになっているのだろう。男子部員は地面に転がってのたうちまわりながらも、両手を口にやってなんとか神聖なグラウンドにゲボを吐かないよう必死の努力を続けているのが見えた。
『おら、はやく立てよ』
女子部員が残酷に言う。
『はやく立たないとお仕置きするぞ?』
『ひいいッ!』
『それがイヤなら、ほら、立て』
自分たちよりも格上の女子部員に言われたら選択の余地はない。
よろよろしながら男子部員が立ち上がる。
眉を八の字にして、苦悶で顔を歪ませながら、生まれたての子鹿みたいに立っている。そんな弱々しい男子の様子を鑑賞して、女子部員たちが笑っている。もはや勝負でもなんでもない光景が繰り広げられていった。
『はい、次はショート』
ボッゴオオンッ!
『セカンド、いくよ?』
ぐじゃあああッ!
『・・・・ファースト』
ボッッグウウッ!
『レフト、さすがにとれよな』
ばっぎいいいッ!
『きゃはっ、外野でもライナーとれないとかザコじゃん。次センターな?』
ぼおっごおおッ!
『ライト、顔面にぶち当ててやるから覚悟しろよ?』
グッジャアアッ!
美しい長身女子部員たちによる蹂躙。
打つ場所を指定して、そこで守る男子部員を打球だけでボコボコにしていく。男子たちも必死に捕ろうとするのだが、無駄だ。強烈な打球に反応すらできずに、硬球が体にめりこむ。そして体を痛めつけられてグラウンドに崩れて悶えるのだ。
『うううッ』
嗚咽を漏らしながら投手は投げ続けていた。
女子部員が宣告した場所とは違う場所に打たせればアウトが一つとれるのだ。
投手も捕手も、必死になって女子部員に打たせまいとする。右バッターがサードやショートを指定した時には外角に投げ込み引っ張らせないようにする。しかし結果は非情。女子部員たちが卓越した技術とパワーで軽々と打ち返し、宣告した場所で守る男子部員たちを血祭りにあげていく。もはやこれは野球ではなかった。
『最後はピッチャー、おまえだよ』
恐ろしいゲームを始めてしまったツインテールの少女が笑う。
既に1回裏には53点という文字が刻まれていた。
男子部員たちは息も絶え絶えで、ついには守備中なのにグラウンドに倒れたまま立ち上がれなくなっていた。仲間たちの屍の中で一人ピッチャーマウンドに立つ投手がガクガクと震え始める。
『ゆ、ゆるじで』
怯えた表情で命乞いをしている。
投げたら終わる。
自分の投球はまったく通用していない。どんなボールを投げようとも目の前の1年生女子は簡単に打ち返すだろう。強烈なピッチャーライナーが自分の体を破壊する未来―――それを思い浮かべることができるからこそ投手は投げられない。マウンドから視線だけの命乞いが続けられていく。
『ほら、投げろよ』
『ひいいいいいッ』
『投げなきゃ、おしおきすっぞ』
『ああああああッ』
『先輩たちがしてたよりさらにエグいやつでお前のこと壊しちゃうよ?』
それが嫌ならはやく投げろ。
猫みたいなニンマリした笑顔で言われた男子投手に選択肢はなかった。ブルブルふるえながらふりかぶる。ツインテールの少女がニヤニヤ笑いながらバットを構えた。絶望しながら投手が投げて、次の瞬間には甲高い音が響き、ピッチャーライナーが男子投手のミゾオチに直撃した。
『おええええええええッ!』
もはや投手は立ち上がれない。
マウンドに崩れた男子が胃の中身を吐き出し、空気も吐き出して、胃液まで垂れ流しながら悶えていく。守備中の男子たちが全員崩れ落ちる。それを女子部員たちがニヤニヤしながら見下ろしていた。
『ほらほら、もっと心こめて磨け』
試合は1回表でコールドになった。
ホームベース前で再びむかいあって並んだ女子部員と男子部員が、罰ゲームをとりおこなっている。
男子部員はユニフォームを没収されていた。1回表でコールドゲームになってしまうようなザコに神聖なる公式ユニフォームなんてふさわしくないのだ。男子部員たちは全裸になって女子部員たちの足下に膝まづいている。打球をさんざんに受けて、内出血の傷だらけになった体をさらした男子部員たち―――彼らが行っているのは、ようやく手に入れた公式戦ユニフォームで女子部員たちのスパイクを磨くという罰ゲームだった。
『うううッ』
肉体的な痛みだけでなく心も傷つけられて男子部員たちが嗚咽していく。
女子部員は仁王立ちで立ったままだ。
その足下に虫けらみたいに膝まづいた男子部員たちが、女子部員のスパイクを磨いていく。
剥ぎとられたユニフォームで―――3年間夢見た公式戦ユニフォームで―――少女たちの脚にご奉仕していく。3年間厳しい練習に耐えてきたのに、つい最近入学したばかりの素人たちにボコボコにされ、力の差を見せつけられ、その靴を磨くしかない屈辱。男子部員たちは例外なく全員がボロボロと涙を流し、自分の誇りだったはずのユニフォームが汚れていくのを呆然と見つめていた。
『きゃはっ、泣いてる泣いてる~』
『先輩たちにも聞いてたけど、やっぱ受けるね』
『コレやるために2年と1年の男子には親善試合見せてないんっしょ?』
『そりゃそうだよね~。3年間がんばっても素人の女子部員にも勝てないなんて現実見せつけられたら心折れちゃうもん』
きゃははっと少女たちが笑う。
ピカピカのユニフォームを着た長身女性たちが、全裸の男子を見下ろして笑っていた。
『おら、もっと磨けよ』
『おまえらが一生懸命努力して手にいれたユニフォームで、女の子様のスパイク必死に磨いてくだちゃいね?』
『少しでも汚れが残ってたらお仕置きです』
『ぷぷっ、女の子様との格差分からされて、よかったでちゅねー』
丸裸の男子たちは嗚咽を漏らしながら磨いていく。
1年生女子部員たちのスパイクがピカピカになるまで、その罰ゲームは終わることがなかった。
*
「それでは次が最後の動画です」
スクリーン横の奈津実ちゃんが言う。
「最後は寮生活の動画を見てもらいますね」
最後の動画。
そう言われてはじめて、動画を見せられてからかなりの時間が経過していることに気づいた。
なぜか俺の頭はぼおっとしていた。
奈津実ちゃんが登場して、こちらを見つめてきた瞬間から、どうにもうまく現実を認識できない。あまりにも不自然だ。まるで暗示をかけられているみたいにスクリーンに集中してしまっている。周囲の男子たちも同じで、誰もが質問や文句を口走ることなく、スクリーンを見つめている。隣の朝井も虚ろな瞳で前方を注視していた。
「学校には寮があって、生徒たちはそこで生活することになります。寮は男女で別々になっていますが、男女で一緒に生活することも可能です。ペアになった男子を調教するために女子寮に連れ込んで、厳しい指導をする人もいます。やはり学校の中だけではどうしてもできない調教がありますからね」
くすくすと奈津実ちゃんが笑う。
映像が切り替わって部屋の中の光景を映しだされる。
かなり豪華で広い部屋だ。
そこで長身女性が丸裸の男子にお尻ぺんぺんをしていた。
椅子に座った女の子のムチムチした太ももの上に腹ばいになるように寝転がされた男子が、その剥きだしになった臀部をビンタされていく。今も強烈な張り手がお尻に直撃して「バッチイインッ♡」という音を立てていた。男子の悲鳴があがり、嗚咽があがる。というか、この女性は・・・・・・・、
「寮生活の動画は、わたしとペアの男子を映したものになります。ふふっ、こうして動画で見ると恥ずかしいですね」
確かに、スクリーンに映った長身女性は奈津実ちゃんだった。
これは奈津実ちゃんの部屋の中を映した映像なのだ。見知った女の子による調教風景―――俺はゴクリと唾を飲み込み、スクリーンを凝視してしまった。
「この男子はわたしの幼なじみなんです。幼少の頃は兄のように慕っていました。ちいさな頃、病弱だったわたしは、いつもこの男子に頼りっきりでした。将来は結婚して幸せに暮らす。そう思っていたんです」
すべて過去形で語った奈津実ちゃん。
言われてみれば彼女の太ももの上で腹ばいに倒れているのは2歳年上の翔太先輩だ。初等部の頃、何度か委員会で顔をあわせたことがある。2年前に奈津実ちゃんと一緒に卒業した先輩男子が、お尻ペンペンで虐められていた。
「調子に乗りやすい男子の心を折って、女の子様に従順にさせることが女子生徒に与えられた義務になります。この学校という制度もそのために準備されたものです。だからこそ、わたしも憧れだったお兄ちゃんを毎日のように調教しているんです。ほら見てください。翔ちゃんのお尻、どす黒く変色してきましたね」
言葉どおり、スクリーンでは男子のお尻が変色していた。
奈津実ちゃんの大きな手が矮小なケツをビンタして、悲鳴があがる。「じいいいんっ♡」とした痛みが男子の体に侵食していく様子が見てとれる。まな板の上にあげられた男子には逃げるという選択肢もなく、永遠と2歳年下の同級生によってお尻ペンペンされていった。
『反省した、翔ちゃん?』
映像の中で奈津実ちゃんが問いかける。
その普段どおりの様子が恐ろしい。男の臀部がどす黒く変色するまで情け容赦なくビンタを放ったというのに、奈津実ちゃんが少しの罪悪感も覚えていないことが分かる。
『ねえ、反省したの?』
『はひいいいッ! 反省しましたあッ!』
『ほんとう?』
『はひいいいッ! 反省ですうううッ!』
もはやしどろもどろになって男子が言う。
男子としては背が高かった翔太先輩がボロ雑巾みたいになって、情けない表情を浮かべて悶えていた。
『そう。なら、がんばろっか』
奈津実ちゃんが翔太先輩の頭部を両手で挟みこむようにつかみ―――立ち上がった。
仁王立ちになってその巨体をさらす。制服姿でも隠しきれない爆乳。胸をドンと突き出して強調した大きなおっぱいは、制服の布地を「パッツンパッツン♡」にしてしまっている。巨大な陰影。そんな大きなおっぱいにむかって、奈津実ちゃんが翔太先輩の顔面を押し込み、潰した。
『むううううッ!?』
翔太先輩の頭部が奈津実ちゃんの爆乳に埋まってしまった。
顔面どころではなく、その後頭部までが制服でつくられた谷間に生き埋めにされてしまっている。身長差があり過ぎるので翔太先輩の足は地面についていない。おっぱいで顔面を捕食されて、宙づりにされて、奈津実ちゃんの大きな体に埋もれるようになっていた。
『えい♪』
『むうううううううッ!』
そして処刑が始まる。
奈津実ちゃんが自分の爆乳を両腕で抱きかかえるようにして潰した。制服ごしに盛りあがる巨大な乳房が、腕の形にあわせてぐんにゃりと潰れる。そのおっぱいの谷間に挟まれている翔太先輩が文字通り潰れていった。
ベギバギッベッギイイイッ!
映像越しであっても目を背けたくなるような破壊音。
翔太先輩の頭部がおっぱいで潰されていく。
巨大な乳房の谷間に埋もれた頭部から「バギバギ♡」と骨が軋む音が鳴り始めていた。そんな目にあっているのに悲鳴はくぐもってしかあがらない。爆乳で包み込まれているので命をかけた絶叫も乳房に吸収されて小さくなってしまうのだ。宙づりされた翔太先輩の体だけが半狂乱を起こしたように暴れていく。両手両足をじたばたさせて爆乳地獄から解放されようと必死だ。
『いーち、にーい、さーん』
しかし翔太先輩がどんなに暴れても奈津実ちゃんはビクともしなかった。
その巨体で仁王立ちになったまま、翔太先輩が暴れても体をよろめかせることすらしない。両腕でおっぱいを抱きしめ、谷間に拘束した幼なじみの頭部を潰していく。無慈悲なカウントだけが淡々と続けられていった。
「こうして女性特有の体の部位で調教するのが効果的なんです」
スクリーン横の奈津実ちゃんが言う。
幼なじみの男子を調教している動画を見上げながら、目の前の奈津実ちゃんがマニュアルを読み上げるみたいに続けた。
「お尻ぺんぺんの前にもこうしておっぱいで調教をしていたんですが、翔ちゃんはまったく耐えることができなかったんです。1分間気絶しないで意識を保っているだけの簡単な調教なのに、何度も何度も気絶してしまいました」
困ったものです。
そんなふうに顔をしかめる奈津実ちゃんと、くすくす笑う女子たち。
しかし耐えられなくて当然だ。スクリーンの中で翔太先輩は爆乳に捕食されて潰されてしまっている。呼吸なんて当然できないだろう。そんな窒息死の恐怖とは別に圧殺の恐怖にも耐えなければならない。ぐんにゃりと潰れたおっぱいの形が目に飛び込んでくる。さきほどから「バギバギ♡」とおっぱいに食べられる音が響いていった。
『さんじゅういーち、さんじゅうにーい、さんじゅうさーん』
動画の中ではカウントが続く。
あれだけ暴れていた翔太先輩の体がぴくぴくと動くだけになっていく。
宙づりにされて、足をつける地面を求めて滑稽なダンスが続いていたのも今は終わり、ダランと力なく垂れ下がるだけになっていた。くぐもった悲鳴すらなくなり、奈津実ちゃんのカウントダウンと、翔太先輩の頭蓋骨がバギバギ軋む音だけが響いていった。
『ろくじゅう。はい、これでおしまいだよ』
動画の中の奈津実ちゃんが言う。
『さ、生きてるかな?』
久しぶりに奈津実ちゃんがおっぱいを抱き潰すのを止めた。
頭蓋骨の軋む音も止まった。すぐに奈津実ちゃんが谷間に手をつっこんで翔太先輩の髪の毛をつかむ。そしてぐいっと持ち上げて、谷間から翔太先輩の顔面だけを引っ張りあげた。翔太先輩の顔面がアップで映し出される。俺は息をのんだ。
『うわっ、トロトロのグジャグジャだね、翔ちゃん』
その言葉どおりだった。
翔太先輩は虚ろな眼を浮かべて弛緩していた。眉を八の字にして、半開きの口からは舌をダランと出して脱力している。涙と鼻水とヨダレを垂れ流して、奈津実ちゃんの制服がビジョビジョになっていた。粘膜みたいな体液で汚れた翔太先輩の顔は、恐ろしい化け物の胃の中で消化されてしまったみたいに見えた。
『あ、あひ、あ、あ、あ、あひん』
それでも翔太先輩は気絶だけはしていない。
あのおっぱい地獄をなんとか耐えきったのだ。
『気絶しないで偉いよ。がんばったね翔ちゃん』
奈津実ちゃんが翔太先輩の頭を撫でる。
恐怖で壊れそうになっていた頭を直接撫でられ、すぐに翔太先輩が幸せいっぱいの表情を浮かべた。女神に祝福された敬虔な信者のよう。苦痛と幸福の落差で洗脳されていくのが分かる。もはや自我すら忘れたように翔太先輩はとろけた表情を浮かべてされるがままだった。
『ふふっ』
奈津実ちゃんが翔太先輩を完全に解放する。
宙づりになっていた翔太先輩の体が床に落ちた。それを確認した奈津実ちゃんが再び椅子に座る。そして靴下すら履いていない生足を翔太先輩の眼前に近づけ、一言、
『忠誠』
『ひいいんんんんッ♡』
すぐに翔太先輩はキスをした。
正座になって頭を下げて土下座のような格好となり、長身女性の足の甲に口づけを捧げる。身も心も屈服して全てを投げ出すようなキス。絶対服従していなければできない【忠誠】を身をもって体現して、その状態を維持している。
『ん。上手にできたね、翔ちゃん』
年上の幼なじみを調教できてお満悦の様子の奈津実ちゃん。
忠誠のキスを続ける翔太先輩を見下ろして満足気に笑っている。足にキスをできて偉いよとねぎらいの声をかけている長身女性。二人のこれまでの関係が分かるような、そんな光景だった。
『舐めろ』
すかさず命令が飛び、男子が言われたとおりにする。
ためらいもなく顔をあげた翔太先輩がぺろぺろと奈津実ちゃんの足を舐め始めた。
その顔に屈辱の色はない。あるのは陶酔。自分よりも強い長身女子様にご奉仕できる幸せをかみしめた男子が、さらにぺろぺろと舐めていく。動画からは唾液音だけが響いている。それがずっと続いた。
●●●
「これで学校生活を説明した動画はおしまいです」
映像が終わる。
スクリーンがあがって天井裏に収納されていく。
照明が再び点灯した壇上で、生徒会長である奈津実ちゃんが俺たちのことを見下ろしていた。
「このように学校という制度では、女子が男子を指導し、調子に乗らないように調教していく必要があります。さきほども言いましたが、女子には男子を調教する義務があるんです。先の大戦において、調子に乗った男たちのせいで人類は滅亡の危機に追い込まれました。そのようなことがないよう、女性が男性を厳しく指導し、その心を折ることが人類の平和と安全のために必要とされています」
奈津実ちゃんが続ける。
「女性が男性の心を折るというプロパガンダは全世界共通になります。その方法は世界各国で様々です。日本やドイツや韓国といった権威主義的直系社会の国では、パターナリスティックな方法が採用され、学校制度を用いた男子の指導という方法がとられています。その他にイギリスやアメリカといった平等的で差別肯定の国では、完全実力主義のために、生まれた時から男女で厳しい競争が行われます・・・・・・その結果は想像しなくても分かりますよね(笑)。中国では、男性は家具として女性社会における共有財産として扱われたりするようです。こうして考えると日本に生まれた男性たちは運が良かったんでしょうね」
俺たちは黙って聞き続ける。
疑問や反論は頭に浮かばない。ただぼおっとして奈津実ちゃんの言葉を聞いていく。女子たちだけが「くすくす」と笑っていた。その様子に気づいた奈津実ちゃんが「あ」と声を漏らした。
「ごめんなさい。暗示を解くのを忘れていましたね」
笑って、
「はい。もういいですよ」
ぱあんッ!
奈津実ちゃんの両手が打ち鳴らされた。
その音が脳みそを揺さぶって、ハっとする。
ここは体育館で、今まで訳の分からない映像を見せられていたことを自覚する。
さきほどの奈津実ちゃんの説明―――女性が男の心を折る―――それを今後の学校生活で行うことになる―――俺たち男子は女子よりも劣った存在―――そんな説明をされても納得できるはずがなかった。
「ふざけんじゃねえぞッ!」
隣の朝井だ。
顔を真っ赤にして怒り狂った朝井が、立ち上がって大声をあげていた。
「そんなこと俺は認めねえ! つーかお前ら俺たちを騙そうとしてるだろ? 女が男よりも強いだ? 女が男の心を折る? そんなことできるわけがねえだろうが!」
朝井の絶叫を受けて、周囲からも言葉が飛ぶ。
「ふざけんなッ」
「なんのカルトだよこれ!」
「なんで女に従わないといけないんだッ」
そんな言葉が体育館を満たしていく。
男子たちが己のプライドをかけて奈津美ちゃんに唾を飛ばしていた。
「そうですよね。信じられませんよね」
しかし喧噪にまみれた体育館でも奈津実ちゃんは困ったような笑顔を浮かべるだけだった。
ほかの女子たちも「くすくす」と笑うだけだ。なぜこいつらはこんなにも余裕そうなんだろう。
奈津美ちゃんが答えを宣告してきた。
「女性が男の心を折る―――厳しく指導する―――そんな社会が許されているのは、ひとえに女性だけが身につけることができる【能力】のおかげなんです」
壇上の奈津実ちゃんが聞き分けの悪い子供に説明するみたいに続けた。
「観測したことをそのまま実現できる能力。量子力学が関係していると言われていますが、その詳しい内容はまだ研究段階にあります。先の大戦もこの【能力】を警戒した男たちが戦争をしかけ、そしてこの【能力】のせいで返り討ちにあいました。重火器が一切通用しないんですから、当然ですよね」
くすくすという女子たちの笑い声。
俺たち男子は訳が分からず困惑するしかなかった
「百聞は一見にしかず。わたしたち女性にしか発現しない【能力】を実際にお見せしましょう」
*
ちょっと待っててくださいね。
そう言って奈津実ちゃんが壇上のそでに姿を消した。
何をする気なのだろう。
奈津実ちゃんの言う【能力】とはなんなのか。
訳が分からないことが多すぎてザワつく男子たち。そんな俺たちをさらなる驚愕が襲うことになった。
「お待たせしました」
壇上のそでから奈津実ちゃんが現れる。
彼女はヒモを握っていた。犬を繋げるリードのようなもの。どういうことだろうと疑問に思うヒマもなく、奈津実ちゃんの後を追って現れた生物を見て、驚愕した。
「に、人間?」
現れたのは全裸の男子だった。
奈津実ちゃんが握ったリードは、男子の首に装着された首輪まで伸びていて、繋がれている。全裸の男子が獣のように四つん這いになって、這ってくる。まるで散歩だった。女の子が人間犬の散歩をしている。そんな信じられない光景に俺たちは息をのんでしまった。
「ふふっ、驚きましたか、みなさん」
壇上の中央で仁王立ちになった奈津実ちゃんが言う。
全裸の男子もまた四つん這いになってその顔をあげていた。
その顔には見覚えがあった。
「そうです。幼なじみの翔ちゃんです」
「くうううううんっ♡」
「【能力】の紹介をするあたって協力してもらうことにしたんですよ。ね?」
「くううううんんッ♡」
奈津実ちゃんに問いかけられて翔太先輩が犬の声で鳴く。
こんな状態でも完全服従していることが分かる。陶酔しきった表情で奈津実ちゃんを見上げた四つん這いの男―――心の底から崇拝していないと浮かべられない表情で、翔太先輩がご主人様に媚びを売っているのが分かった。
「何匹か男子を奴隷に墜として遊んだりしましたが、やはり翔ちゃんが一番です。一緒に生活をして厳しい調教を繰り返してきたので、翔ちゃんはすごく優秀なんですよ。それをみなさんにお見せしますね」
にっこりと笑った奈津実ちゃんの笑顔が恐ろしい。
彼女はそのまま自然な手つきで首輪からリードをはずした。そして、
「これが女性にしか身につけることができない【能力】です」
浮いた。
全裸の翔太先輩が四つん這いのまま宙に浮かぶ。
足が床から離れて一瞬虚空をさまよい、すぐに抵抗もしなくなる。奈津実ちゃんの顔よりも上に浮かびあがった翔太先輩は自分では体を動かせないみたいで、されるがままになっていた。
「こうしてまじまじと見ると、男子の体って本当にちっちゃくて貧弱ですよね~」
奈津実ちゃんが宙に浮かばせた翔太先輩を鑑賞しながら言う。
「胴体も細いし、太もももマッチ棒みたいです。ふふっ、わたしたち女子とは比べものにならないほど貧弱な体。正直、笑っちゃいますよね」
くすくすと女子たちが笑う。
俺たち男子は宙に浮かんだ翔太先輩を見上げたまま「あ、あ、あ」と言葉にならない声をあげるしかなかった。
「観測したとおりの現象を発生させることができます。今は翔ちゃんの体を浮かばせると観測して、そのとおりにしているんです」
にっこりと笑いながら、
「宙に浮かばせるだけではありませんよ? こんなこともできます。ふふっ、見ていてください」
奈津実ちゃんが両手を前に出す。
途端に翔太先輩が怯えた。顔を硬直させて絶望に染まった表情を浮かべている。そんな男子のことを見つめてニッコリと笑った奈津実ちゃんが、「ぎゅううううっ♡」と右手と左手を重ねて力をこめた。その瞬間、
「ぎゃあああああああああああッ!」
べぎばぎべっぎいいいいッ!
断末魔の悲鳴があがった。
それと同時に翔太先輩の体が潰れていく。
全身の肉という肉が押し潰され、骨という骨が軋まされていく。両手両足が体に密着して一本の人間棒になってしまった。圧縮されて潰されているのだ。それが分かった。
「悲鳴をあげるな」
奈津美ちゃんの冷たい声。
翔太先輩が絶望の表情を浮かべた。
「うるさいでしょ、翔ちゃん」
「あああああッ♡」
「黙って潰されていなさい。できるよね?」
睨まれた翔太先輩がガクガクと震える。
眉を八の字にして、顔を鬱血させるほどに真っ赤にして、それでも翔太先輩は悲鳴をあげるのを止めた。
今もその体が潰されているのは、バギベギと鳴る骨の音からも明らかだった。全身を砕かれていく恐怖感に耐えながら悲鳴を我慢しているのだ。翔太先輩が奈津実ちゃんのことを心底怖がっていることが分かった。
「今は翔ちゃんの体を潰す観測をしています」
胸の前で右手と左手を重ね合わせている奈津実ちゃんが言う。
「ほんとうは手を重ね合わせる必要もないんですけどね。このほうが分かりやすいですし、便利なんです。ふふっ、これを繰り返していると、わたしが両手を重ねただけで翔ちゃんは怯え狂って泣きじゃくるんですよ。それがとってもかわいいんです」
ベギバギッベッギイッ!
奈津実ちゃんの説明の間も翔太先輩の体は潰れていく。
両手両足を胴体にへばりつかせて、さらには体がへこんでいってしまっている。肉と骨が砕かれていく音が響いていく。それでも翔太先輩は悲鳴をあげない。顔を鬱血させ、激痛で悶えながらも、絶対に悲鳴はあげない翔太先輩の姿に、俺たちは怯えてしまった。
「それでは近くで見せていきますね」
奈津実ちゃんが歩き出す。
その前方では翔太先輩が宙に浮かびながら潰れていく。
ステージ上から降りて、俺たちと同じ床を踏みしめた奈津実ちゃんが近づいてくる。
(お、おおきいッ)
奈津実ちゃんはますます成長していた。
大きな体。
大きなおっぱい。
同い年にはけっして見えない発達した女体。
制服のスカートから伸びる太ももはムチムチしていながらも大人の脚そのものだった。代謝の良い健康的な肌に吸い込まれてしまいそうになる。それと同時に今も宙に浮かんで潰されていく翔太先輩の姿に圧倒された。
(か、観測したものを現実にできる能力)
そんなものがこの世界にあるなんて信じられなかった。
こうして目の前で見せられても現実感がない。
ワイヤーか何かで吊されて、潰される演技をしているのではないか。そんな疑問が浮かぶ。それは自分だけではないのだろう。目の前の現実的ではない光景に度肝を抜かれた周囲の男子たちが「ははは」とひきつったような笑い声をあげていた。それは隣の朝井も同じだった。
「こ、こんなのインチキだろッ。ふ、ふざけんなよ!」
騒ぎ出す。
そこに奈津実ちゃんがやってくる。
翔太先輩を宙に浮かばせながらの颯爽とした姿。かつて同じ教室で勉強をしていた女の子が、その高身長からまじまじと俺たちのことを見下ろしてきた。
「う」
近くに迫られるとその迫力に圧倒されてしまう。
生命力の塊みたいな長身女性に見下ろされて、俺たちは何も言えなくなってしまった。
「ふふっ、久しぶりですね、朝井くん」
奈津実ちゃんが笑う。
「やっぱり簡単には納得できないですよね」
「な、なにを」
「ふふっ、そうですね。朝井くんに協力してもらいましょうか」
あくまでもニッコリとした笑顔だ。
そんな優しそうな笑顔のままで、奈津実ちゃんが悪魔と化した。
「朝井くんの体も潰してあげますね」
奈津実ちゃんが再び両手を重ね合わせた。
艶めかしい――手と手――指と指――ソレらが淫靡に絡みあった。
それを間近で見せつけられ、思わず見惚れてしまっていると、隣の朝井の体が宙に浮かんだ。そして、
「ぎゃああああああああああああああああああッ!」
朝井の断末魔の悲鳴が響く。
その体がバギバギと潰れていく。
朝井が、軋み、軋み、軋み、潰れていった。
「ね、能力は本当だったでしょ?」
ニコニコ笑いながら奈津実ちゃんが言う。
「種も仕掛けもありません。これが女の子にしか身につけられない能力です。こんなふうに自由自在に男子の体を宙に浮かして、潰すこともできちゃいます」
ぎゅううううううッ!
両手が重なる。
艶めかしく右手と左手が擦りつけられていく。まるで性行為みたいに妖艶な動作。その大きくて美しい手によって男の存在がわし掴みにされ、潰されていくのだ。貧弱な男子の体など、ひとたまりもなかった。
「ひゃだあああああああッ!」
「んふっ」
「やめろおおおおおおおッ!」
朝井がガクガクと体を暴れさせる。
しかし奈津実ちゃんは動じない。それどころか「くすり」と笑って、さらに手と手を重ね合わせる。それだけで朝井の体はビクンッと痙攣して動けなくなってしまった。バギバギと体が潰れていく。朝井にできるのは、ただ、
「ぎゃああああああああああああああああああッ!」
断末魔の悲鳴をあげることだけだ。
顔を鬱血させ、目を見開きながら、喉を枯らすほどの絶叫をあげていく。
その光景を見せつけられて、俺の体がガクガクと震え始めた。
「あ、あ、あ、あ、」
そんな声しかあげられなくなる。
俺は完全に理解した。
能力は本物だ。
女子たちは化け物なのだ。
俺たち男子とは違う存在。
男のことなんて虫けらみたいに殺すことができる能力。
それが怖くて怖くて仕方なかった。
「ふふっ、妹さんとは仲直りできた?」
奈津実ちゃんが俺のことを見下ろして言った。
気さくな談笑みたいな会話だ。その間も艶めかしい両手の動きは継続していて、朝井と翔太先輩の体が、俺のすぐ近くで潰れていく。
「ちゃんと仲直りできてないと、これから大変だよ?」
「え?」
「まあ、もう遅いけどね。ふふっ、がんばってね」
そう言い残して奈津実ちゃんが去っていく。
朝井の体を使って能力の説明を続けていく。
体育館の窓ガラスを振動させるほど朝井の悲鳴が轟く。
ほかの男子たちも大人しくなった。
くすくすと、女子たちの笑い声が体育館に充満していった。
つづく