……絶対に許さない。
かすみは目の前に立つビルに向かい、再び決意を確かめる。とあるスジからの情報によれば、このビルの責任者がなんらかの形で私のクローンに関わっていたようなのである。
セーラー服姿。
郊外地とはいえ目立つわけにはいかない。それは敵に対してもそうだが、それ以上に霧幻天神流の抜け忍という身分ゆえに……。
かすみはゆっくりとビルへと入っていく。目指すのは最上階。
◆
「それでそろそろ通してくれませんか。私には勝てないって言う事はわかりましたよね」
かすみは、背後から男の首を締め上げ、15人ほどの男と対峙しながら言った。
情報を知っていそうな地位のあるものに接触しようと進んでいたところ、予想どうりにかすみを排除しにきたというわけだ。
そしてリーダー格の男がかすみを取り押さえようとしたのだが、返り討ちにされ、今締め上げられているという状況に至ったわけである。
かすみに締め上げられている男の体はボロボロで、右腕が変な方向に曲がっている。それと対照的にかすみには傷一つなく、汗すらかいていない。
「カハ」
男は白目をむき出しにしながら残った左腕で抵抗を試みる。それを興味なさ気に見下ろすと、かすみはさらに男を締め上げた。
ビクっと男の体が震えると、左腕の抵抗までなくなり、かすみの腕でなかば宙吊りになった形になる。
「ふう、この人あなたたちの中で一番強いんですよね?リーダーなんだから」
うっと、かすみを囲む男達はひるむ。
「でも私にとっては弱すぎですよこの人」
ほら、とそのまま男のわき腹を突き刺すようにして殴る。
「カハァ」
「ほら、ほら、ほら、ほら」
左腕で男の首を絞め、拘束し、右腕で男を嬲る。
男はなすすべもなく殴られ続ける。目からは涙があふれ、口からは悲鳴がこぼれる。
ボス、ブチ、グボグ。
指を伸ばしきった状態で突き刺すように殴る。そのたびに男の体は衝撃で吹き飛ばされそうになるが、かすみはそれを許さず、体を密着させて拘束する。
ほら、ほら、ほら。
なんでもないように殴り続けるかすみ。息すらあがっていない。何度も何度も夢中になって殴る。
男はもはや意識もないのか悲鳴すらあがっていない。
ブス、ゴキ、ボコ、ゴキ。
それでもかすみは容赦しない。ぐったりとした男の体を殴り続ける。
ひっと、かすみを取り囲む男たちは息をのむ。恐ろしい、普通はここまでやらない、やる必要が無い。もはや自分達を憎んでいるとしか思えない行為だった。
「う、うわー」
男の一人が、恐怖に耐えかねたのかかすみへと突っ込む。それを見て他の者達も一斉に。
「ふう」
やれやれ、といった具合につぶやき、締め上げていた男を捨てる。
「命だけは助けてあげようと思ってましたが、そっちがその気なら容赦はしません」
男達を迎え撃つように、構える。
一人目。
相手の攻撃をかわして、、そのまま心臓を一突き。右手が体を貫通して男の血がかすみのセーラー服を汚す。
二人目。
力をいれてなさそうな回し蹴りで、男の頭がとぶ。
そこからは虐殺だった。セーラー服姿の女子高生に15人もの男が殺されていく。
かすみは、それがなんでもない事のように、淡々と男達を殺していった。
◆
「ひい、ひ、助け、助けて」
周りには死体が散乱している。おびただしい血をかすみは浴びているが、それが怪しいほどの色気をかもしだしていた。
残るは一人。かすみは腰がぬけて座り込んでいる男の頭を掴むと、立たせるように持ち上げた。
かすみと男は面とむかって顔を合わせる。
「お願いします、助けて、た、たすけて」
男の頭を両腕で拘束する。おびえる男をみつめた後、かすみは哀しそうに笑って、
グシャ。
膝で頭を潰した。
◆
目の前には今までにない豪華なドアがあった。
――――この中にいるんですね。
おそらく、自分のクローンについての情報を知っているとしたら会社のトップの人間だけだろう。それを予想して、かすみはここまでただひたすらに突破を繰り返してきた。
――――どんな手段をつかっても聞き出してみせる。
かすみは覚悟を決め、その豪華なドアを開けた。
部屋に入る。そのだだっ広い空間の中で、一人の男が机で何かの書類に目を通していた。
スーツ姿であるがインテリという風でもなく、体格も大きい。その男が、ふうー、と息をつき。
「部屋に入ると時はノックをしろといつも言って……な!? 」
かすみを見たとたん驚きの声をあげる男。顔は驚愕にゆがんでいた。
「お、お前、どっちのだ……まさか組織が俺のことを殺そうとして……」
「どっちのだ、という事は、あなたは私のクローンの事を知っているんですね」
「うっ」
かすみは男の方へと近づいていく。血のついたセーラー服姿とあいまって、かすみの迫力は男を萎縮させるのに十分だった。
「し、知らねえよ。俺らは奴を目的地に運んだだけなんだ」
聞く耳をもたないといった感じで、かすみは歩き続け、男の目の前にたどり着いた。ムシケラをみるような目で男のことを見下ろす。
「本当だって。他のことは知らないんだ」
ズガアアアン。
「ひいいいい」
かすみは脚を振り上げると、そのまま男の使っている机にむかって踵落とし。すさまじい破壊音とともに、机は文字通り木片と化した。
「早く白状したほうがいいですよ。あなたの事を殺すことは簡単なんですから」
絶対零度の視線で男を睨みつけながら言う。その様子は高圧的であり、普段の彼女のおっとりとした感じからは想像もつかなかった。
「う、嘘じゃねえよ。本当だって、本当に何も知らないんだ」
「…………」
男の言葉をひと欠片も信じていない様子がありありと感じられる。かすみはそのまま男の背後へとまわりこみ、
「ぐげええええ」
腕を男の首に絡みつけさせ、一気に締め上げた。
「本当だったらこれで終わりです。首の骨を折ってそれで終了です。あなたが生きていられるのは私の機嫌しだいだってことを忘れないでください」
「かあああはははあああ」
男は息も絶え絶えといった様子。かすみはそんな男を立ちながら拘束し、首を絞めている。自然と、かすみの豊満な体は男に擦り付けられることになっているわけだが、その感触を堪能する余裕など男にはあるはずもなかった。
「これ以上私の機嫌を損ねないでください。いいですか? もう一度聞きますよ…………その前に腕が邪魔ですね」
男の腕がかすみの首絞めに対して、申し訳ない程度に抵抗しているのを見て言う。そんな男の抵抗も、かすみにとってみればまったく問題はなく、そのまま赤子の手を捻るかのように男の首を絞め続けられるのであるが……
「……この腕は邪魔ですね」
言うと、かすみは右腕を男の首からはずした。結果、左腕一本で男を締めることになるがそこはまったく問題が無い様子で、暴れる男を片手一本で完全に拘束していた。そしてその自由になった右腕で、男の右肩の部分をつかみ、
「抵抗なんてするからこうなるんですよ」
ボギ。
「かはあああああああああ!!」
そのまま力まかせに男の右肩を下に、思いっきり引っ張った。
ダラン、と力をなくしたように垂れ下がる男の右腕。……肩の関節を強引にはずしたのだ。
「それじゃあもう片方も」
男の顔が恐怖にゆがむ。首を絞められ声をだせない喉で、必死に許しを乞うている。
しかし、
ボギ。
「があはははははあかかあああ!!」
容赦なく、かすみは男を壊す。
左腕も、右腕と同じように力を無くし、ダランとただぶら下がっているだけのオブジェへと変わる。
かすみはそれで満足したのか、男への首絞めを終了した。
そして、背後から男を包み込むように抱きしめ、拘束する。
「これで分かりましたか? もう痛い目にはあいたくないですよね。早く白状したほうがいいですよ」
男の耳元で囁く。しかし男にはその言葉は届いていない。あまりの激痛にもだえ苦しむことしかできていないようである。
男の目からは涙がとめどなく溢れ、口からは涎が溢れている。
しかし、そんな男の事情など知らないかすみは、男の沈黙が、自分の言葉に対する拒否表示だと思ったようで……。
「聞いているんですか? 」
ぎゅう、と抱きしめる腕に力が入る。
かすみの豊かな胸が男の背中で変形し、体と体がこれ以上ないというほどに密着する。
男のほうが体格がいいにも関わらず、男を抱きしめ完全に拘束しているその様子は、獲物をつかんで今にも捕食に移りそうな蜘蛛を連想させた。
「もう首を絞めていないんだから声ぐらいだせるはずですよね。死ぬ前に早く白状したほうがいいですよ」
「ゆ、許して、ほん、本当に知らないんだ。本当だ。ほん……ぎゃあああああああああ!! 」
ベギ、と肉が潰れる音が鳴ると共に、男の絶叫がこだまする。
かすみは男を抱きしめてる腕にさらに力を入れると、そのまま男の体を潰しにかかった。
本来ならば快楽を生み出すはずの、かすみのやわらかい体が男を潰すための凶器に変わった。
「早くしないと本当に潰れちゃいますよ? まずは肉が潰れてその次に肋骨、内臓、そして最後には背骨……これを食らった人達はみんな泣き叫びながら素直に白状してくれるんですけど……」
かすみの腕にさらに力がこもる。
かすみの腰が前へと突き出され、体が後ろへとそる。結果、男の体がかすみの体に乗っかるように持ち上げられ、男の足が地面につかなくなった。
体格差のある男を半ばもちあげるようにしても、かすみにはまだ余裕があるらしく平然と男の体を潰し続けている。
ボギ、ボゴ、ブチ、ゴキ、グボ、ゴキ。
潰れている。
涼しい顔をしながら、セーラー服姿の少女が男を潰している。
男は抵抗しようにも腕はもはや使い物にならなく、さらに足は地面についていない。結果、男はなすがないまま、かすみに手玉にとられるしかなく、命乞いをするしか男に許された行為はなかった。
「があああああ、ほん、ゴフ、本当に知ら、ぎゃああああ」
「…………」
無言。
かすみは無言のまま男を後ろから抱きしめ、潰すことをやめない。
「本当だって……助け、がははあ、助けてください、ゆ、許しかはあっはは」
「……肋骨やっちゃいますね。覚悟してください」
やめて、と目を見開く男と、今までにないほどの圧壊音が響くのは同時だった。
かすみは、なんでもないかのように男の肋骨を潰した。
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!」
絶叫が響き渡る。
かすみはそれが耳障りだとでもいうように腕に力をこめた。
男の体が激しく痙攣するが、かすみは微動だにしない。体がまったくブレることもせず、男の体を封じ込めている。
「これで分かりましたよね。早くしないと死にますよ。今だって折れた肋骨が心臓とかに刺さったら死んじゃうんですからね……まあもっとも白状するまでは死なせませんが」
悶え苦しむ男。
かすみはそんな男を抱きしめ潰しながら、これで終わりだろう、と心の中で思う。
いくら相手が粘った所で、ここまでくれば白状しない奴などいない。今までもこの技を食らってきた者は、肋骨を潰した段階で、全員泣き叫びながら白状してきた。この男も例外ではないはずであった。
だが、しかし、
「ゆ、許して……ぶぼぼぼぼぼ、た、たすけて」
男は口から泡を吹き出しながら、目を虚ろに、命乞いを続けるだけであった。
――――まさか本当に知らないとでも。
かすみの中で疑念が生じる。
その疑念は信じたくもないものだった。
今まで自分のクローンを探し出すために多大な労力をつぎこんできた、かすみ。そんな中でようやくつかんだ今回の情報。この男が本当に何も知らないとなれば、また振り出しに戻る事になる。
――――信じたくはない、でも。
かすみは意を決して確かめることにした。その疑念が真実かどうかを。
男の体にさらなる激痛を加えることによって。
「えい」
「がははははははははああああ!!」
男の体がビク、と痙攣する。
掛け声とともにかすみは、今までとは比べ物にもならない力をもって男のことを抱きしめにかかる。
もはやその様相は、廃車となった車をスクラップにするためのプレス機のよう。
男の体からは、ブチブギと肉が潰れる音が、ゴギボギと骨が砕ける音が鳴り響く。
「ゆ、許してえええええええええええええええええええええ!!」
瞬間、ふいっ、といった感じでかすみの腕から力がなくなる。
いまだに男のことを抱きしめながら拘束しているが、もはや男の体からは圧壊音は聞こえてこない。
「え、ええ?」
男は何が起きたのか分かっていない様子。そんな男に対して
「本当に何も知らないんですね? 」
「は、はい」
祈るような問いかけ。もはやかすみの中で答えはでていた。
――――ああ、こいつは本当に何も知らないんだ。
落胆していないといったら嘘になる。この日のためにどれだけの労力をつぎこんできたのか。情報量として金もかかった。それだけの事をしたのにまた最初からやり直しとは。
「あ、あのー」
これからの事を考えると憂鬱になる。またアレを最初からやれというのは中々どうして酷いものがあるじゃないか。里からは抜け忍の始末のために追っ手も来る。それを対処しながら、また一からやり直しというのは……!!
「ええーと……助けてくれるんですか? 」
「うるさい」
ぎゅう。
「があああああああああああ!! 」
今までは手加減だった。殺しては何もならないから。しかし今は違う。思いっきり力をこめられる。もう殺してもいいんだから。
かすみの腕が、プルプルと震えている。最大圧力。ベギバギという圧壊音がまるで何かの音楽のように鳴り始める。
男の苦しみ方は今まで以上で、目は完全に白目であった。しかしそんな中男は最後の力を振り絞るように。
「な、何で……俺は本当に、し、知らない、がははははははああああ!! 」
「ええ、分かっています。だから殺すんじゃないですか。何を言ってるんですかあなたは」
な! と息をのむ男。ついでに胃が破け、逆流してきた吐血も飲み込む。
「あなたは自分のしたことをちゃんと分かってるんですか? あなたのせいで何人死んだと思ってるんですか。何人死んだと……!!」
内臓が潰れていく。あまりの激痛に体が電気ショックをうけたかのように痙攣していく。
もはや男の体は、人、の形とは別のものになりつつあった。
「それにあなた一人生き残ってもしょうがないでしょ? あなたの部下は私が一人残らず殺しました。地獄ですぐに会えますよ」
たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて。男の唇がそう動く。もはや声をだす喉は喉としての機能を有していなく、他のパーツも似たようなものだった。
かすみは、男のことを抱きしめる。すべての憎しみを自分の腕に込めて。ただただ復讐の鬼女と化して男の体を潰す。
「じゃあサヨウナラ。死んでください」
ボギン。
一際大きな音がしたのと同時に男の体は動かなくなる。
男の体を離す。上半身が肉塊となった男の体が、ベチャ、と床に転がった。
かすみはそれを冷たい目つきで見下ろす。セーラー服には男の血液がこべりついており、白いセーラー服というよりは赤いセーラー服と言ったほうがいいような様相を呈していた。
血まみれのセーラー服に身を包み、悠然と佇んでいる姿はなんともいえず美しかった。
17歳とは思えない色気が、隠せることなく色めき立っている。
かすみは静かに、その部屋からでていく。
静かに、一言の言葉も口にださず。
かすみの心にあるのはただ一言 ――――絶対に許さない。
かすみの戦いは続く。
第二話